前回(2014年7月号)紹介したように、ブラジルにおける自動車の生産台数は世界第7位、販売台数は世界第4位であるにもかかわらず、ブラジル独自ブランドの自動車メーカーはない。この点をブラジルの自動車関係者に聞くと異口同音に「ブラジルには既に独自の自動車メーカーは存在する。その1つがBrazil Volkswagen社(以下BVW社)だ」と言う。

 会社名からしても製造している自動車モデルにしても、BVW社は間違いなくドイツ系メーカーでありドイツ車である。その点を指摘すると、ブラジル人からは次のような答えが返ってくる。「BVW社は創立当初、ドイツ資本の外資系自動車メーカーだった。しかし、ブラジルが経済の立て直しなどの施策からBVW社の資本を国有化して国営企業となった。その後、再び株式を公開して民営企業として新たに出発し、現在に至っている。従って我々はBVW社が国営企業になった時から、同社をブラジル独自の自動車メーカーとして捉えている」。

 実は、国営企業から民営企業への移行はBVW社だけに限ったことではなく、多くのブランド企業で行われた施策である。BVW社が外資系企業か国内企業かについてブラジル人と議論してもあまり意味は無いが、彼らが「自国の自動車メーカー」として自負を持っていることだけは間違いない。

 従って、以下に記すブラジルの自動車製造現場報告の底流にあるものづくりの精神は「自国ブランドの自動車を独自の国内技術で造る」ことが基本になっている。この点は、タイやインドネシアなどアジア諸国における自動車製造のものづくりの精神とは大きく異なっている。