今回の実車試験では、衝突を回避できる速度に加えて、加速度センサーを使って止めるときの減速度を測った。減速度を分析すると、各社がどのような安全思想に基づいてブレーキを動作しているのか分かる。大きく分けて一気に止めるか、警告してから止めるかの二つの考え方がある。前者はスズキ、トヨタ、ホンダ、Volvo社、VW社、後者はダイハツ、日産、富士重、BMW社が採用する。

 “お仕置きブレーキ”─。

図1 ワゴンRの試験風景
対車両を想定したターゲットに向けて車速約20km/hで走らせたときの様子。約1m手前で停止。
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図2 ワゴンRの測定結果
対車両を想定した試験。上が車速、下が前後加速度の結果。加速度の負の値である減速度は最大で10m/s2(約1G)近くに達した。車速が30km/hを上回ると自動ブレーキは動作しない仕様で、実験では30km/hを少し下回ったので自動でブレーキがかかった。
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 スズキが社内の開発者の間で密かにこう呼び合うのが、同社の自動ブレーキ機能「レーダーブレーキサポート」におけるブレーキのかけ方である(図1)。前方車両に近づくとブレーキを強くかけ、車両の減速度(前後加速度の負の値)を一気に高めて止める。

 本誌の試験で測定した前後加速度を見ると、車速約20km/hでターゲットに向かう場合で約4.4m前から減速度が急激に高まり、止まる直前で約10m/s2(1G)に達した(図2)。スズキの技術者によると制御ソフトウエアの仕様上、車両のブレーキ性能がもっと高ければ、10m/s2を大きく超え得るという。この値はほとんどの運転者が不快に感じる水準といえる。

 実のところスズキが自動ブレーキ機能を開発していた当初、減速度の最大値を約8m/s2(0.8G)程度にとどめ、少し優しくブレーキをかけることも検討した。ブレーキを強くかけ過ぎると、不快だと感じたユーザーから苦情が集まりかねないからだ。それにもかかわらずスズキは最終的に減速度を高めることにし、苦情のリスクが高まる設計を選んだ。同社の考える安全運転の理想を優先したためである。それが「運転者の過信を防ぐこと」(スズキの技術者)だった。

 スズキの開発者にとって、自動ブレーキ機能は「本来は使ってほしくない機能」だとする。運転者が安全な運転を心がけ、ぶつかりそうな危険な状況に陥らないことが理想だ。このためスズキは運転者に最小限の利用にとどめてほしいと考える。

 仮にブレーキを少し優しくかけて“使いやすい”設計にすると、自動ブレーキに頼り過ぎる「過信」を生じさせて運転者自らがブレーキをかけない運転をする可能性がある。最小限の利用に抑えたいスズキは、そうした「過信」が生じる可能性を少しでも下げたかった。このため減速度を不快に感じるほどの水準に設定して「2度と自動ブレーキ機能を動作させたくないと運転者が思う」(スズキ)ようにし、「過信」を防ぐことにした。だから“お仕置きブレーキ”と呼んだわけである。