無線の便利さを知ってしまうと、もう後戻りできません。自分で使う前にはバブル時代の名残に見えた携帯電話機は、慣れてしまうと手放せなくなりました。以前住んでいた家で、LANを張り巡らせるために各部屋に設けたポートは、無線LANの導入で一度も日の目を見ませんでした。スマートフォンやタブレット端末に慣れた今では、電池の持ちを気にして、つなぎっぱなしにしているノートパソコンの電源ケーブルが、たまらなく邪魔なほどです。

 さまざまな機器を「線」から解放してきた無線技術は、いよいよ数十Gビット/秒もの超高速データ伝送を実現しつつあります。ここまで速くなった無線が、次に福音をもたらす領域はどこか。それを追ったのが、特集記事「配線のくびきを断つ」です。

 これだけの速度があれば、機器内部の部品間やデータセンターのサーバー間をつなぐ配線の代替が視野に入ります。こうした用途では、通信に利用するミリ波などの直進性の高さや減衰の大きさといった制約もさほど問題になりません。何より無線ならではの利点がいくつもあります。もちろんコストの高さなど、採用へのハードルが高いのは常の話。そして、そこにこそ技術者の活躍の場があるはずです。開発者として日本勢の名前もあるだけに、国内でのいち早い実用化を期待しています。

 もっとも、期待の新技術が「死の谷」に落ちてしまい、実用化に結びつかないケースはしばしばあります。こうしたアイデアの芽を育てる資金を集める手段として、注目を浴びるのがクラウドファンディングのサービスです。

 解説「クラウドファンディングで『欲しい物を作る』開発を」では、このサービスを活用した米国での開発事例を、エクシヴィの近藤義仁氏に寄稿してもらいました。同氏は自らエバンジェリスト(伝道師)を名乗るほど、記事で取り上げたヘッドマウントディスプレー「Oculus Rift」に入れ込んでいます。そこまで思わせる製品の裏側には、日本企業の常識とは一線を画する、ものづくりの手法がありました。日本でも、個人の発想を製品に仕立てる仕組みを、業界全体で考えるべきかもしれません。

 巻末に「記者の異見」というコラムを新設しました。専門分野を持つ記者ならではの視点で、業界への提言やニュースの読み方、取材の裏話を紹介していきます。話題の用語を取り上げるコラム「キーワード」と交互に掲載する予定です。今回は、今後の成長株であるセンサーの市場が抱える矛盾を指摘。新分野の果実をなるべく自社に取り込むための知恵比べが早くも始まっているもようです。

(今井)