図1●スポット溶接ロボットと組み立て作業者のミニチュアを製作した北島洋志
他の研修生たちよりも年上でメカ設計の経験が豊富な北島は、ミニチュアラインの中でも複雑な動きを必要とするからくりを担当した(a)。スポット溶接ロボットのミニチュアでは、6軸ロボットのアームを表現した試作品を製作(b)。アドバイザーを務める藤田東司を驚かせた。
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「おぅ、何やってんだ?」

 2012年11月某日、曙ブレーキ工業本社の生産技術部門のオフィス。機構生技部からくりプロジェクトの藤田東司は、生技開発部機構次世代設備開発課の北島洋志の背後からこう声を掛けた〔図1(a)〕。振り返った北島の手には、小さくて細長い木工細工が握られていた〔同(b)〕。

「もしかして、例のアレか?」

「はい。ちょっと週末に思い付いたので木で作ってみました。狙い通りに動くか分からなかったんで…」

 藤田と北島は、藤田がからくりプロジェクトに異動する数カ月前まで機構次世代設備開発課で直属の上司と部下の関係だった。同社が若手生産技術者向けに実施しているミニチュア生産ラインを作製する研修では、藤田が研修生たちを見守るアドバイザーを、北島が研修生の1人としてリーダーを務めることになり、再びタッグを組んでいた。

 藤田は北島の手元からそれを受け取ると、手でカチャカチャと動かし始めた。それには関節が1つあり、付け根の部分から長いワイヤが伸びていた。そのワイヤを引っ張ると関節が曲がり、開放すると関節が伸びる動きをした。

「おもしれぇなぁ。これ、6軸ロボットのアームのミニチュアだろ?」

「はい」

「いいんじゃねぇの?」

「そうですか?」

 うれしそうな表情を浮かべる北島。一方の藤田は、心の中で「コイツ、すげぇな」と感心していた。というのも直前の金曜日、藤田は北島からこのミニチュア設備の動かし方について相談を受けていたからだ。