前回(第4回)は、マーケティングの下位概念である「マーケティング・ミックス」について学習しました。今回は、マーケティング、とくに商品・サービスの企画・開発で使われる「新規性」と「独自性」について学んでいきましょう。

 まずは「新規性」です。

 マーケティングの世界でよく使われる「新規性」ですが、エンジニアにとっては、特許出願の際によく耳にする言葉です。特許法では、新規性は「従来公開されている技術ではないもの」を意味します。新規性は英語で「novelty」と書きますが、これはinnovationと同じで「新しい」を意味するラテン語のnovが含まれています。つまり、特許を取るには、その技術に斬新さや奇抜さがなければならないのです。

 しかし、エンジニアの経験をバックグラウンドにもつマーケターが、技術的な斬新さや奇抜さという観点だけで新規性を捉えてしまうと、商品・サービスの企画・開発は失敗してしまうかもしれません。なぜなら、お客様を歓喜させる新規性は、技術的な新規性ではないからです。

 では、お客様はいったい、どんな新規性を求めているのでしょうか。ここで、以下の会話を読んでみてください。これは、実際に筆者が体験した会話そのものです。

筆者:○×△社が最近出したノートPCなんだけど、あれすごく薄くて、軽くて、デザインもシンプルで良いよね。起動速度も速いみたいだし。今使っているノートPCは、もう4年も使ったから、この際買い替えようかなあ……。
友人:ああ、あれね。あのノートPCは確かに薄くできているけど、そんなに良いかな?? あんなの何も凄くないよ。だって、CPUは一世代前のスペックだし、機能は少ないし、記憶容量も小さいし……。あそこまでやれば、そりゃ薄くもなるし、軽くもなるよ。

 この友人は、実はエンジニアなのですが、彼の着眼点は「技術的な新規性や高度さ」にあります。彼曰(いわ)く、どうも私が欲しいノートPCは斬新さに欠けるようなのですが、私はこのノートPCが欲しくて仕方がないのです。なぜなら、ノートPCのお客様候補(=ターゲット顧客)である私の着眼点は「体験の新規性」だからです。ほかにはない「すごく薄くて、軽くて、デザインもシンプル」というノートPCであれば、きっと今感じている不満を解消できる。「あれもできる」「こんな使い方もできる」と、ノートPCがもたらしてくれる新しい生活スタイル(=体験の新規性)を期待しているのです。

 もちろん、新しい技術そのものが「体験の新規性」をもたらすことも多々あります。しかし一方で、技術的な新規性に邁進するあまり、「体験の新規性」を蔑(ないがし)ろにしてしまうことが非常に多いのです。体験できないものにお金を払うほど、お客様は「技術マニア」ではないのですね。この「体験の新規性」を意識した商品・サービスの企画・開発ができると、マーケターとして一歩も二歩もリードできるはずです。