ソース・ドレインのアニール技術は,Siウエーハを電気炉で加熱する方式から光で加熱する方式に進化してきた。電気炉では数十枚ものウエーハを石英チューブごと加熱するので,昇温や降温に時間がかかる。このため,ソース・ドレインの表面に打ち込んだ不純物がSi内部に拡散し,トランジスタ特性が劣化してしまう。

 そこで20年前に光加熱方式のアニール技術が登場した。この方式では光照射によってウエーハのみを加熱するので,昇温や降温の速度をケタ違いに速くすることができ,不純物拡散の問題を解決できた。現在主流のハロゲン・ランプを使ったスパイクRTA(rapid thermal annealing)と呼ぶ技術も光加熱方式である。

 現在開発段階の45nmノード(hp65)以降になると,不純物の熱拡散をいっそう抑えなくてはならない。そこで同じ光加熱方式でもハロゲン・ランプに替わる新技術が求められている。その代表例が,FLA(flash lamp annealing)技術である。

Siに吸収されやすい光使う

 FLAは,Siに吸収されやすい波長1.1μm以下のXeフラッシュ・ランプ光を使う(図1)。波長が長い従来のハロゲン・ランプに比べて,短時間でSi表面の温度を上昇させられる。これによって,不純物の熱拡散をさらに抑制することが可能になる。

図1●Siに吸収されやすいXeフラッシュ光を利用
FLAは,Siに吸収されやすい波長1.1μm以下のXeフラッシュ光を使うので,短時間の光放射でも効果的な加熱ができる。ランプのスペクトルはウシオ電機が提供。

 SiウエーハにXeフラッシュ光を当てると,Si表面は急速に加熱され,約1msで1000℃以上に達する(図2)。光照射を止めると,Siの高い熱伝導率によって熱が拡散し,表面温度は急速に冷えていく。現行のスパイクRTAでは,昇温速度が200℃/秒,降温速度が100℃/秒であるが,FLAでは3ケタ速い60万℃/秒の昇降温を実現できる。

図2●Si表面を瞬間的に1000℃に加熱
Xeフラッシュ光によってSi表面に一定の熱が加わると仮定し,Siの温度上昇カーブを求めた。輻射やガスによる冷却は考慮していない。著者のデータ。

 この方式を使うと,不純物分布はイオン打ち込み時に比べてほとんど変化しないことが確認されている1)。しかも,表面は高温に加熱されるため,この部分では不純物がSi原子と十分に結合し,ソース・ドレインの電気抵抗が低くなる。

 FLAを実用化する上で大きな課題となるのが,ウエーハ割れの防止である。FLAでは光を照射した時にウエーハの表面と裏面に大きな温度差が発生するので,熱応力によってウエーハが反り,割れることがある。発生する応力は,数百MPaに達するといわれている2)。大きく二つの手法によって,この問題を解決した。