ボタンが3段階で動く

 一般的なスイッチではボタンの動く位置がオン/オフの2つであるのに対し、イネーブルスイッチではボタンが3段階で動きます。図5に、各段階の接点の開閉状態を示しました。以下、なぜそのような構造になっているのかについて説明します。

図5●イネーブルスイッチの構造と、ボタンの各段階における接点の開閉状態
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 ポジション1は、ボタンを操作してない(押し込んでいない)状態です。操作者には手動運転操作の意図がありません。接点はオフで、機械には電源が供給されません。

 ポジション2は、ボタンを軽く押し込んだ状態です。操作者には手動運転操作の意図があります。接点がオンになり、機械に電源が供給されます。ロボットのティーチング作業などは、この状態でのみ行えます。ボタンを操作している手を放した場合、ボタンがポジション1に戻り、機械への電源供給が遮断され、機械は停止します。

 ポジション3は、ボタンをいっぱいに押し込んだ状態です。このとき接点はオフになり、機械への電源供給が遮断され、機械は停止します。

なぜポジション3があるのか

 手動運転操作のことだけを考えれば、ポジション1と2だけで事足りるように思えます。それでは、なぜポジション3が設けられているのでしょうか。それは、予期せぬ危険な事態が発生した場合における人間の反射的な動作を考慮しているからです。

 手動運転を行う場合、作業者はボタンを押し込んでボタンのポジションを1から2に動かします。ポジション2の位置でボタンを保持している間だけ手動運転が許可されます。この状況で機械の故障など予期せぬ事態が発生した場合に、作業者が反射的にペンダントを放り出しても(ボタンのポジションが2から1になっても)、逆に作業者が反射的にボタンを強く押し込んでも(ポジションが2から3になっても)接点はオンからオフに変わり、電源供給が遮断されて機械が停止するので、作業者の安全を確保できるのです。このことが、ポジション3を設けている理由です。ちなみに、ボタンがいったんポジション3まで押し込まれた場合、その後で手を離しても、回路はオフのままボタンはポジション1まで戻るようになっているので、途中で機械が動き出す心配はありません。

 世の中には、ポジション1と2しかないイネーブルスイッチ(2ポジション・イネーブルスイッチ)も存在します。しかし、2ポジション・イネーブルスイッチでは予期せぬ危険な事態が発生した場合に作業者が反射的にボタンを強く押し込んでしまうと、機械を停止できません(図6)。従って、安全が関わる用途では3ポジションタイプを使用すべきです。

2ポジションタイプと3ポジションタイプの比較
図6●2ポジションタイプと3ポジションタイプの比較

 本コラムでこれまで紹介してきた非常停止スイッチは、作業者の判断と意思によりボタンを押して機械を停止させる安全機器です。それに対して、イネーブルスイッチは作業者の意図的な操作だけではなく、作業者の反射的な(無意識の)行動によっても危険を回避できるのが特徴です。