まとまった新しい周波数の供給といえば高い周波数になる,というのが従来の常識であり,アナログのテレビ放送の停波はその常識を覆すものである。低い周波数は,前述のように伝搬時の減衰が小さく,無線機のコストを低減しやすいという利点がある。十分な帯域を取りにくい,他の無線局との干渉を起こしやすいなどの欠点もあるが,使いやすい周波数なので今後のワイヤレス通信の技術的方向を左右することになるだろう。

 そこでは,例えば,利用できる周波数が分散しており,空いている周波数を探しながら利用可能な周波数帯域幅も測定し,その周波数と帯域に適した変調方式や符号方式を決定するコグニティブ無線技術とか,そうした方式の無線機を自動的に構成するソフトウエア無線技術が発展することが予想される。

今後も新技術開発は続く

 ワイヤレス通信の歴史はMarconi氏の実験から始まった。移動通信への応用は軍用から民間に転換されていったが,この転換のパターンは1980─1990年代にもCDMAなどの実用化でも見られた。

 ワイヤレス通信ネットワークをどう管理するかは,携帯電話系と無線LAN系で分かれる。前者は音声伝送を中心に広い地域に展開し,大きな管理組織が必要となる。今後,電話サービスと並行して高速のデータ伝送が焦点になる。後者はデータを伝送し,エリアも狭く,管理者はユーザー自身である。データ通信はさらに高速化し,エリアを拡大する無線MANや,小さなエリアの無線PANも盛んになろう。 無線MANにおいては,モビリティー機能もあるとされるWiMAXが知られているが,セルラー通信系に比べてどれだけ特徴を出せるのか疑問もある。セルラー通信系よりもネットワーク制御や干渉に弱いだけ,ということにしてはならない。無線MANの技術的出発点は無線LANであり,無線LANはエリアが狭いので,周囲との干渉をそれほど考慮しなくてもよかった。しかし,無線MANとなれば,干渉問題や周波数効率といったとセルラー通信系が克服した問題点を考慮しなければならない。

 さらにセルラー通信系と無線LAN系のほかに,第3の分類を筆者は提案したい。それは,ユビキタス無線通信系である。従来のワイヤレス通信では,固定しているにせよ,移動するにせよ,人間が情報を受けたり発したりして,それをできるだけ高速にしてきた。無線LANでは,パソコンからインターネットにアクセスしたりゲーム機同士が通信したりするが,通常は人間が情報をやりとりしている。これからは,人間ではなく,物が情報を提供するユビキタス無線通信系の大いなる発展が予想される。具体的には,RFIDや可視光通信である。