ところが無線LANについては,ベンチャーが少なく大手が多い日本の企業は,米国などのベンチャー企業に比べて担当人員が少ないという皮肉な結果になっている。標準化の席上で,「あーだ,こーだ」と立派な理屈を並べて議論していても,しょせん装置が目の前に置かれデモンストレーションで動作が確認されれば,その装置を展示したメーカーの意見が通るものである。ベンチャー企業は提案する規格しか取りえがないが,大企業はほかにも逃げ道があるし企業内部でも対立意見を抱えていることが多く,動きが鈍いようである。

 携帯電話は全国や全世界で展開するインフラ技術であり,需要を予想でき,販売戦略を立てやすい。これに対し,無線LANの市場は需要が予想しにくい。

 ワイヤレス通信は,公共的インフラ技術のはずだと学習した大企業の通信部門にとっては,あまり得意な分野とはいえないかもしれない。しかし前述のように,無線LANをコンシューマ向けの通信ととらえ家電であると割り切っていれば,大企業も異なる戦略を採ることができただろう。日本のワイヤレス業界が携帯電話に強く依存し,無線LANを苦手とするのは,このような技術の標準化プロセスの違いと,ワイヤレス通信のとらえ方の違いに起因するのかもしれない。