制度化が早すぎた無線LAN

 無線LANの歴史は,1985年のISM(industrial scientific medical)バンドをスペクトラム拡散通信方式に解放したことから始まる。ISMバンドは高周波加熱用に作られた周波数帯域であり,本来通信用ではなかった。短波帯からマイクロ波帯まで所々にあり,最も有名なのは2.4GHz近辺のおよそ100MHz帯域である。

図4 無線LANを制度化したFCCのMarcus 氏
図4 無線LANを制度化したFCCのMarcus 氏
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 家庭でも利用される電子レンジは,高出力の発振管で発振したマイクロ波を被加熱物に当てることで調理する。家庭に普及する以前からも工場や研究機関,病院などで利用されていた。電子レンジの構造を見れば分かるが,被加熱物はシールドされた筐体の内側にある。マイクロ波の発振管への入力電力は家庭用で数百Wから1kWであるが,漏れ出る電磁波はかなり抑えることができる。1985年,米FCC(Federal Communications Commission)の技官であったMichael J. Marcus 氏は周囲を説得して,ISMバンドを利用した無線LANを提唱した(図4)。ISMバンドでは,高周波加熱のマイクロ波が干渉波になるので,干渉に強い方式としてスペクトラム拡散通信方式が選ばれた。