普及の鍵握る電源

 ワイヤレス通信技術は,専門家が利用するだけでなく,ラジオ放送やテレビ放送のような,一般大衆が受信機を購入し利用する技術にもなった。優れた技術は,まず専門家が利用し,次に一般大衆が利用する。今後は,さらにロボットなど人間以外にも普及するだろう。

図3 Motorola社の創業者とカー・ラジオ
図3 Motorola社の創業者とカー・ラジオ
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 1930年代に無線の大衆化を促したメーカーとして,米Motorola,Inc.がある。当事ベンチャー企業であったMotorola社の創業者は,ラジオ放送の受信機の整流器周辺が高価なことと,当時全米で普及した自動車には高出力の直流電源が備わっていることに着目して,カー・ラジオを製造しヒット商品にした(図3)。無線機というと高周波やアンテナ,変調技術が目を引くものだが,電源なくして動かないことに同社は注目したのである。

 1948年にトランジスタが発見され,電源が低電圧で済むようになって,小型で安全な携帯型の無線機を作れるようになった。これが今日,携帯電話機になった。究極の小型の無線機は,RFIDかもしれない。人体に埋め込んだり,体内測定用に飲み込んだりするようなものまで登場している。

 なお,今日でも電源は大きな要素であり,変調方式によっては電力消耗が問題になっている。特に直交マルチキャリヤ変調であるOFDM(orthogonal frequency division multiplexing)は,地上デジタル放送(ワンセグ)や無線LANで利用されているが,振幅変動が大きく,増幅段における電力効率が悪くなりやすいというデメリットがある注3)

注3)ワイヤレス機能を実現するためのコストや消費電力は,変復調技術によって大きく変わってくる。通常は,伝送速度が高い新しいシステムほど大きくなる。高速化のために複雑な技術を使い,回路が大規模になっていくからである。