しかし,1985年当時から続々と製品が出たかというとそうはいかなかった。早すぎたのである。1990年代の中盤まで,パソコンよりも無線機の方が高価といわれた。また,1980年代後半ではパソコンもそれほど普及していなかった。今思うと,あの時代に米国は思い切った制度化をしたものである。Marcus氏の先見の明を感じる。

標準化によって成功した無線LAN

 ISMバンドで利用できるようになったスペクトラム拡散通信方式は,伝送すべき情報が持つ帯域よりも広い帯域を持つ方式であり,CDMAもこの方式に属する。帯域を拡散させるために,擬似ランダム符号を利用するが,ユーザーごとにこの符号を変えておけば,多元接続が可能になる。これはCDMAの原理でもある。

 QUALCOMM社の携帯電話機がCDMAを利用したのも,ISMバンドで無線LANがスペクトラム拡散を利用した影響を感じる。またそれ以上に,米国で軍用通信にスペクトラム拡散が広く利用されていた影響が大きかっただろう。1980年代後半は東西冷戦がなくなって世界的な軍縮の方向にあり,米国でも軍事産業が危機感から軍事技術の民間利用を推進していた。