携帯電話によるセルラー通信では,周波数帯域当たりのユーザー数を増やした方が通信事業者の利益は大きくなる。当時の常識では,周波数は不足しているのだから,できるだけ狭い帯域で通信すべきと考えられていたのだが,CDMAはその常識を覆したのである。

 CDMAは,米国よりも韓国と日本で先に事業化された。米国では,韓国と日本ほどには携帯電話は普及していない。しかし,方式を提案し特許料収入は得ている。技術提案と実際に普及する場所の乖離は,歴史的に何を意味するのか興味深い。Marconi氏がイタリアで技術を発明したが,ベンチャー企業のために母国では資本が集まらず,英国に渡って資本を大きくし,数々の発明を実用化したのと似ている。周波数が有効利用できるというCDMAのメリットは,広い国土の米国ではさほど認められず,韓国や日本といった人口密集地域で重宝されたといえるのかもしれない。

 CDMAの登場以降は,携帯電話技術では米国はアジアと欧州諸国に水をあけられている感じがするが,無線LANの技術については,IEEE802.11など米国を中心に標準化が進んだ。無線LANは,アクセス・ポイントを置けば,その100m程度の範囲でパソコンのために自由にファイル転送などができるシステムであり,音声よりもデータや画像伝送が中心になる。自分の家やオフィスで利用するとき,利用者自身が管理する。家電の感覚で使う技術になったのである。

 ワイヤレス技術を展開した企業の中には大企業もあるが,海外ではベンチャー企業の活躍が目立つ。Marconi氏は英国でベンチャー企業を設立し,Motorola社やQUALCOMM社も歴史的業績を残した。また,今日の無線LANの標準を築いた企業も,米国などのベンチャーである。ワイヤレス通信技術は,自動車技術などと異なり,ベンチャー企業が提案していくのが似合うのかもしれない。