軍事利用から民間利用へ

 火花放電の無線機は日本海軍で利用され,日露戦争の日本海海戦における勝因の一つになった。これで移動体に無線が有効であることが証明された。20世紀初めに,船舶は移動体としてかなり重要な役割を果たしていたが,波長の長い長波を出力する無線機にとっても好都合だった。大きな船舶は長波向けの大きなアンテナを搭載でき,海上には電磁波を妨害するような障害物がなく,火花放電式の送信機は電力効率がすこぶる悪いが,船舶には高出力の電源も備えられていたからである。

 さらに1912年,旅客船タイタニック号は沈没前に無線機から救難信号を発し,周囲にいた船が感知して救助に向かった。沈没前には間に合わなかったが,安全のためには無線通信が重要というイメージを定着させた。これが,今日のITS(intelligent transport systems)やユビキタス無線通信の基礎になっているといえる。技術の進歩には,それを促す技術的,社会的条件が必要であることを歴史が語っている。