プロジェクトの開始とともに、プロジェクトリーダーはプロジェクトの進捗状況を定期的に、できればリアルタイムでモニターしなければなりません。同時に、プロジェクト全体を経営的視点から把握する責任があります。会社幹部はプロジェクトに対して、以下のような経営上の関心を持っています。

 ①開発された新製品の売上と利益
 ②開発プロジェクトへの投資額
 ③開発にかかる時間
 ④損益分岐点に達する時間
 ⑤プロジェクトの管理状態
 ⑥サプライズ(驚き:リスクとなる突然のプラン変更など)はないか(リスク管理は十分か)

 中でも③と④はプロジェクトの収益性にかかわる重要な管理事項と考えられます。損益分岐点への到達時間が長いということは、プロジェクトへの投資の回収が遅れることになり、会社の財務を圧迫する要因となります。ここで、プロジェクトの進捗、収益性、損益分岐点への到達などを管理する手法として、米Hewlett-Packard社(以下、HP社)の電卓開発プロジェクトのリターンマップを紹介します。

 リターンマップは、X軸に時間(月ベース)を、Y軸には対数目盛で金額が示されています。対数目盛にしているのは、売上と投資の比率が100以上になるためです。小規模なプロジェクトでは、対数目盛を使う必要はないでしょう。ここで金額は累積額であることに注意してください。時間軸では、調査(フィージビリティー、プロジェクト提案)、開発(プロジェクトの実行時期)そして製造販売(製造開始)の三つのフェーズに区分されています。開発プロジェクトの終了は製造開始(Manufacturing Release: MR)の時点です。

 電卓プロジェクトにおいて、調査フェーズは4カ月を要し、コストは40万米ドルとなっています。開発プロジェクトには、12カ月と450万米ドル(約4億5000万円)を要しています。したがって、調査から開発を終了し製造開始までの時間は、16カ月、コストは490万米ドルとなります。製品の販売が開始されると(MRの時点)売上が確実に増加し、販売開始初年度の売り上げは5600万米ドルとなり、利益も着実に増加しているのがわかります。リターンマップでは、時間経過とともに、開発プロジェクトの投資と収益が一目で分かるようになります。