タイトル

 2008年のリーマン・ショックに始まった経済危機は、世界を直撃し、多くの企業が厳しい経営状態に直面しています。今まで優良企業と言われてきた大企業も含めて、組織の縮小、人員整理、経費の削減などの内向きの経営を強いられている企業も少なくありません。

 このような逆境のなか、有効な経営手段のひとつとして新製品、新技術の開発が挙げられます。新製品開発により、新しいマーケットに参入し、営業を拡大することが可能です。

 新製品、新技術の開発というと、ひらめき、偶然の発見などを連想する読者もいるかもしれません。私たちが日常使用している3M社のポストイットは、目的に反して、ラボで偶然できた接着力のない糊から開発されました。しかし、企業は、このような不確定な偶然やひらめきによる新製品開発に頼ることはできません。

 また消費者マーケットと異なり、自動車、エレクトロニクスなどのメーカーを納入先とする企業は、常に一定のプロセスをたどることにより、継続的に新製品の開発に結びつけることが不可欠です。

 つまり、納入先メーカーのモデルチェンジなどによる生産変更に合わせ、タイミングよく、より収益性の高い新製品を開発することが求められます。新製品開発は、企業収益の確保や営業拡販に有効な経営手段となるわけです。

求められる、有効な開発プロジェクト

 企業の経営目標として、売上に占める新製品の割合を具体的に設定している企業もあります。業種によっても異なりますが、もし新製品の販売目標を売上額の25%としている企業は、かなり新製品開発を重要視していると言えるでしょう。新製品開発を重視する企業にとって、開発プロジェクトは希望の星ですが、反面、貴重な経営資源を投資する危険な賭けとも言えます。

 このような企業においては、しばしば研究開発費が増大するため、成果としての新製品の収益を確保しなければなりません。そして、この収益をさらに研究開発につぎ込み、次の新製品開発へと発展させることが可能となります。ここで、有効な開発プロジェクトの運営が、重要となってくるわけです。

 工業マーケットにおける中、小規模開発プロジェクトにおいて、ものづくりの観点から開発プロジェクトの運営法や進め方があります。本稿では、下図に示した開発プロジェクトの手順の中から要点をいくつかピックアップして紹介します。

 ここで提唱する開発プロジェクトの運営、管理方式は、「計画的開発プロセス」(Planned Development Process : PDP)であり、誰もが習得、利用できるものです。一定のプロセスを、一つ一つ進めることにより、誰にでも新製品の開発が可能となります。

 本稿の目的は、主に、工業メーカーに部品、半製品を納入しようとする製造企業を対象に、新製品や新技術の開発を手助けすることを目的にしています。

目次

米野 正博
技術コンサルタント
米野 正博 1947年山形県生まれ。上智大学機械工学科卒。ハートフォード大(米国)MBA.工学博士(東京工業大学)米国ロックタイト社(米国コネチカット州)、ヨーロッパ研究所(アイルランド)勤務を経て、1990年より日本ロックタイト社研究開発所長、会社合併により2002年より2007年までヘンケルテクノロジーセンター、ゼネラルマネジャー。2007年から2009年まで近畿大学客員教授。ロックタイト、ヘンケル社勤務中、自動車、エレクトロニクス、一般産業分野向け高分子材料(接着剤、シール剤など)の新製品開発プロジェクトのマネジメントに従事。