[よく発生する問題]

 無線LANは既に,パソコンやデジタル・カメラ,プリンターなどさまざまな製品に搭載されています。これまで最大11Mビット/秒や同54Mビット/秒のIEEE802.11a/b/gが普及してきましたが,2007年中には100Mビット/秒を超えるIEEE802.11nの実用化が始まる見通しで,既に米国などでは実使用環境下での伝送実験が行われています。今後は,無線LANを使った一般的なパソコンのネットワークのほかに,例えば家庭内のセットトップ・ボックスとテレビのワイヤレス接続などへも,応用分野を広げていくものとみられています。

 ところが,①現行のIEEE802.11b/gなどで「まれに伝送速度が急減するが原因が分からない」という問題が発生することがあります。また,#9313;IEEE802.11nは高速伝送を実現するために,送受信に複数のアンテナを使用するMIMO(multiple input multiple output)を採用する予定ですが,高い伝送速度を得るためにはアンテナの設計などに注意が必要です。

[原因と対策]

 ①「まれに伝送速度が急減するが原因が分からない」の原因として,(a)同じ周波数(2.4GHz帯)の雑音を発生する電子レンジや他の無線システムがからむ干渉や競合,(b)装置の異常や間違った利用で発生するスプリアス(帯域外輻射)による妨害,が挙げられます。中でも問題になることが多い(a)ついて説明します。

 IEEE802.11b/gは2.4GHz帯のISM(industrial scientific medical)バンドの電波を利用しますが,BluetoothやZigBeeなどの無線システムもISMバンドを使います。さらに,この周波数帯を使う機器は,電子レンジや医療機器などたくさんあります。電子レンジは,機器ごとに発生する雑音が異なります。 例えば,同じエリア内にBluetoothなどの無線システムが知らない間に追加された場合,干渉や競合が発生し,伝送速度が急速に低くなります。Bluetoothは他の無線システムとの相互干渉や雑音の影響を少なくするために,周波数ホッピングという方法を使っています。ISMバンド内で1秒間に1600回,周波数を1MHz単位で任意に変更(ホップ)して通信しています。

 干渉していれば,その様子はスペクトラム・アナライザ(スペアナ)のスペクトログラム表示を使用して明確に観測することができます注3-1)図3-1に無線LAN,Bluetooth,電子レンジの混在するスペクトログラムをリアルタイム・スペアナで測定した例を示します。幅の広い周波数占有帯域の広い帯状のスペクトラム(無線LAN)に,細くて比較的レベルの高いスペクトラム(電子レンジ)が干渉していることが分かります。こうなるとデータの再送が頻発してデータ・レートが減少し,最悪の場合はリンクが切り離されてしまいます。

注3-1)ただし,計測器によってはリアルタイム信号取り込みやスペクトログラム表示ができないので注意しましょう。

図3-1 スペクトログラムによる干渉測定事例
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