非常停止スイッチの構造

 非常停止スイッチの構造について、最も一般的な押しボタン式を例に説明します。

<押しボタン色と形状>
 機械設備の操作パネルには、たくさんの操作用押しボタンやインジケータが並んでいます。その中でも非常停止スイッチは、緊急時にそれと分かる必要があります。従って、操作ボタンは大きな赤色で、かつ手のひらで押しやすいキノコのような形をしています。さらに、スイッチの周辺には黄色を配色することで一層目立つようにすることが要求されています(図6)。

図6●非常停止スイッチの配色

<NC(ノーマルクローズ)タイプの出力接点>
 スイッチの接点は、ノーマルオープン(NO)タイプとノーマルクローズ(NC)タイプがあります(図7)。非常停止スイッチでは、必ずNCタイプの接点(NC接点)を使用することが求められています。その理由を以下で説明します。

図7●NO接点とNC接点の比較
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 NOタイプの接点(NO接点)を使う場合、ボタンを押していない(非常事態ではない)ときは接点が開いているのでスイッチが組み込まれた回路に電流は流れませんが、ボタンを押すと接点が閉じて非常事態を知らせる電流が回路に流れます。ところが、接点に異物が付いていたり配線が切断していたりすると回路に電流が流れないので機械設備を緊急停止させられません。これを危険側故障といいます。

 一方、NC接点ではボタンを押していないときに接点が閉じます。この特徴を利用することで、安全状態であることを意味する電流を回路に流せます。ボタンを押して接点を開くと、電流が遮断され、機械設備を停止させます。つまり、非常停止スイッチによる非常停止信号は、それまで流れていた(安全状態であることを意味する)電流を遮断することによって非常停止出力としているわけです。

 接点に異物が付いていたり配線が切断していたりする場合でも非常事態と判断されるので、やはり機械設備を停止させます。これを安全側故障といいます。このように安全にかかわる制御システムや部品は、自身が故障した場合に機械を安全に停止させる形で故障することが要求されます。

<直接開路動作機能(強制開離機能)>
 直接開路動作機能とは、ボタンを押したときの操作力が直接NC接点に作用して接点を強制的に開き、電流を遮断する構造です。たとえ接点が溶着している場合でも、接点を確実に開けます。押しボタンから接点までは全て剛体部品で構成する必要があり、途中にばねなどの弾性体部品は使えません。ただし、接点を元の位置に復帰させるためのばねはこの構造に含まれません(図7)。

 溶着 接点容量を超える電流が流れることによって互いの接点が溶けて、接点が離れにくくなる現象。

<ラッチング機構(自己保持機構)>
 非常停止スイッチのボタンを押すと、電流を遮断すると同時にラッチング機構が働いてボタンを押し下げた位置のままで保持します。これによって電流遮断状態を維持できるので、機械設備の意図せぬ動きを防止すると共に、非常停止スイッチが複数使用される場合、どのスイッチが押されたかを特定出来るようになっています。