ネットオーディオにおけるD-A変換回路の重要性については、今まで解説した通りである。入力であるPCM信号が同一条件であるにもかかわらず、ネットオーディオ機器のアナログ出力特性(オーディオ特性と音質)が異なるのは、D-A変換器の差異による。この差異を大きく左右するのが実装技術である。電気回路として設計された回路はオーディオ機器に限らず、ほぼ全てはプリント基板に実装され、匡体に組み込まれ、各部が配線接続され製品として完成するのが一般的である。こうした実装技術の重要性とキーポイントについて解説する。

実装技術により総合特性は劣化する

 D-A変換器に用いるオーディオD-A変換器ICに規定されている仕様は、理想状態(電源やクロック・ジッター、周辺回路などを含む)でデバイスICを動作させ、規定条件で測定される電気的特性を定めている。主なオーディオ特性は次の通りである。

THD+N:全高調波歪み+雑音のフルスケール信号との比率(単位は%かdB)

ダイナミック・レンジ:-60dBFS出力時のTHD+N値で規定(単位はdB)

S/N:フルスケール信号と無信号時の雑音出力との比で規定(単位はdB)

 これらの仕様は、実装によって特性が劣化する(図21)。D-A変換器ICの仕様は総合値Dで表現している。一方、オーディオ機器としての仕様は総合値Sで表わしている。理想状態は「D=S」であるが、そうならないのは実装における特性劣化要素が存在するためである。実装技術とは、特性劣化要素をいかに最小限にするかということに集約される。

図21:実装による特性劣化要素の概念
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