⑨ 性能達成の見込みが付いたら, 製造現場のルールに準じた機構/ 筐体/基板設計を行う

 電気的な性能が十分になる見込みが付くと,次はプロトタイプ(1次製品試作)の段階に入る。ここでは,製造現場での組み立てのしやすさも考慮して,機構設計,筐体設計,プリント基板設計を行う。この段階に来ると,機器メーカーの製造部門や営業部門,検査部門,筐体設計部門,協力会社など,製品化に関与するすべての部署と協議しながら作業を進めることになる。「② 製品の機能ブロック図を作成する」でも述べたが,最近はワイヤレス製品が高機能化したことを反映して,特定の技術に特化した専業の協力会社が増えてきている。例えば,高周波回路やアンテナ,ベースバンド回路,ファームウエア開発などに特化した専門会社などである。このような会社は,機器メーカーで経験を積んだ高い技術レベルを有する技術者が起業した会社が多く,そのような専業会社を見つけて協力を得ることが,近年の機器メーカーには多くなってきた。

 高周波回路がうまく動作するかどうかは,プリント基板の設計に依存する部分も大きい。高周波回路では,回路と回路はインピーダンスの整合を考慮して,位相変化も考慮した長さの信号線で結ばねばならない。また,ワイヤレス製品では,受信回路は非常に微弱な信号を扱う高周波(アナログ)回路と雑音をばらまくベースバンド(デジタル)回路を,同じワイヤレス機器の中に実装しなければならないため,雑音の影響を最小限にとどめるよううまく分離しなければならない。このためプリント基板上では,アナログ回路とデジタル回路の電源ラインと接地を,それぞれ交流的に雑音成分が入り込まないように分離する。

 最近の高周波ICは,差動入出力回路を有するものが多くなってきた。これは,外来雑音に強いためである。そのため,回路の間は平衡型伝送路(対になった差動信号線で構成する伝送路)で結ばねばならない。平衡型伝送線路でよく用いられる平衡2線は外来雑音にも強い。設計上で注意することは,その回路と回路を接続する2線の長さは等しく,かつ2線のインピーダンスを設計上の値に保持しながら近接して平行に引き回し,それぞれの線から発生する磁界をうまくキャンセルするように設計することである。

⑩ プロトタイプ(1次製品試作)を 作製し性能を評価する

 前項の機構/筐体/プリント基板設計の段階(⑨)で設計/試作したプロトタイプで製品の評価を行う。プリント基板単体で評価した各ブロックを一つの筐体に実装すると,高周波回路やアンテナが周囲の影響を受け動作が不安定になることもあるので,簡易な筐体(図15)を作って特性の評価を行う。

 この段階では,筐体に実装するときの周囲の環境によりプリント基板を変更する必要が出てくることもある。プリント基板の設計・製造会社には,24時間,休日もなくこのような設計変更やプリント基板の試作/部品実装に対応してくれるところもあり,その対応の速さから,問題を短時間で解決できるようになってきた。

図15 簡易な筐体を付けたときの性能評価左の基板に筐体を付けたのが右の試作機。
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