アンテナをメーカーから購入しないで自社開発するときは,最初は図12に示すようなガラスエポキシ基板上にアンテナ素子を作製したり,線状アンテナとして手作りしたりして性能を評価する。製品化するときにセラミック基板などを用いて小さくするアンテナなども,最初はこのような手作りの手順を踏んでから作る。

図12 手作りアンテナの例
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 この段階で性能が出ない回路やアンテナに関しては,その原因を究明し,システム設計者と各ブロック設計者,アンテナ設計者で協議を重ね,定めた仕様を満たすようになるまで設計レビューを繰り返す。

 評価のためにバラック基板や高周波回路機能評価用基板を作るときは,電子部品も事前に準備しておかねばならない。その手配作業が遅れると開発の遅延を生じる。手配の抜けがないように,また,実験のときに気付いた不足部品やプリント基板の変更手配などは,気付いた段階で忘れないように小まめに目立つところに大きくメモを書いておくとよい(図13)。

図13 目立つところに部品や基板の手配メモを張り付ける
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⑥ 前項の評価結果を基に各ブロックの レベル配分や劣化配分を再検討する

 各ブロックのコンピュータ・シミュレーションやバラック基板による実験(⑤)で得られた結果などを基に,システム設計者と各ブロック設計者がデザイン・レビュー(設計の見直し)を行い,各ブロックの最終的な仕様を決定する。

 この段階では,各ブロックに使用する部品もほぼ確定しているので,その部品の電気的特性から全体のレベル配分や劣化配分を,精度を高めて見直す。場合によっては,部品の再選択までさかのぼって,各ブロックを再検討する。

⑦ 前項のレベル配分や劣化配分を基に 各ブロックの性能を満たすように再設計を行う

 デザイン・レビューで見直しを行った後,各ブロックの再設計を行う。高周波回路機能評価用基板は,この段階では図11の下側のような,製品の寸法を意識した小さなプリント基板に試作する。

 この段階で,コンピュータ・シミュレーションでは見えてこない原価低減手法---例えば,電源周りのバイパス・コンデンサの削減などを行う。回路設計の段階では,多くの場合,過剰に電源のバイパス・コンデンサを入れていると思われるが,省略しても性能の劣化がないことが確認できた場合には,回路からバイパス・コンデンサの数を減らし原価低減を検討する。このような原価低減の検討は,設計の初期段階で考えても無駄になることが多い。例えば,設計図を基に机上でバイパス・コンデンサを減らそうと検討しても,再設計でやり直しになる。初期の設計では,まずは性能を出すために十分な数量のバイパス・コンデンサを入れておいて,設計がほぼ確定した段階で,評価用の小さなプリント基板を使って動作を確認しながら省略する方が効率がよい。

 また,製品に近い評価用基板を作った段階で,不要輻射を抑えたり雑音の影響を低減したりするために,プリント基板上でシールドを施す場所の見通しを付けて,筐体設計者にその情報を伝える(図14)。

 この段階では,アンテナも実際の製品の大きさで作り,製品に近いプリント基板や筐体に取り付けて評価する。小さなアンテナは周囲の部品や筐体などに非常に敏感に反応し,電気的な特性が変化する(敏感に反応するのは,アンテナの性能が良い証拠でもある)。実装したときに共振周波数や給電点インピーダンスなどが変わってしまったときは,この再設計の段階で補正を加える。

図14 シールドを施す場所の見極め実験の例
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 アンテナ・メーカーからアンテナを購入するときは,アンテナ単体で非常に良く特性が出ていても,プリント基板などに実装するとアンテナの特性が変わることが多い。しかし,この原因を理解していない機器メーカーが,アンテナ・メーカーに対して特性変化のクレームをつけているのをよく耳にするが,これは誤りである。アンテナは周囲の影響で特性が変わるということを機器メーカーは理解し,アンテナの設計補正を行うために,実際の製品のプリント基板や筐体をアンテナ・メーカーに貸与し,協力を惜しまないようにしなければならない。

⑧ 全ブロックを接続し装置全体の 総合評価を行う

 前項の再設計後に試作した各ブロックを接続し,製品に近い形で総合評価を行う。ここで性能が出ない場合は,各ブロックのレベル配分や劣化配分の再検討(⑥ )に戻り,同様なプロセスを繰り返す。