⑤ 各ブロックのシミュレーションや  バラック基板で性能を評価する

 現在,シミュレーションは設計の現場でよく行われている。工学・科学計算ソフトや電子回路シミュレータ,電磁界シミュレータ,アンテナ・シミュレータなどを多くの設計者が利用している。工学・科学計算ソフトは波形やシステム的なパラメータの解析,電子回路シミュレータは電子回路の波形解析,電磁界シミュレータはプリント基板やアンテナの電流分布/電磁界放射の解析,アンテナ・シミュレータはアンテナの電気的特性(インピーダンス,帯域,電流分布,放射パターンなど)の解析に用いられている。

 シミュレーション技術は進歩し,かなり精度が上がってきている。シミュレータを使えば,電子工学や電磁気学の基礎知識が十分ではなくても設計はできる。このため,機器メーカーは設計時間を短縮し,開発費用を低減するために,コンピュータ・シミュレーションを多用するようになった。高周波回路の設計力は経験で身に付けるべきと考えてきたベテランの技術者には不本意であるかもしれないが,便利なものは活用した方がよい。

 ただし筆者は,コンピュータによるシミュレーションは,深い知識と地力を備える真の技術者を育成するときの大きな障害になっているとも考えている。本来,設計者は電子工学や電磁気学の基礎知識を広く深く持っていて,その知識を基に熟慮して電子回路やアンテナを設計すべきものだからである。

 若手のコンピュータ・シミュレーション信者の技術者には,少なくとも利用しているシミュレータがどのような方針で作られたものなのか,他のシミュレータとはどのような違いがあるのかなどを理解しておいてほしい。そうしないと,求めたい結果が得られない場合もある。これを心にとどめ,時間を見つけて電子工学や電磁気学の勉強をしてほしいと思っている。

 コンピュータ・シミュレーションの結果を基に設計されたロジック回路や高周波回路制御用治具(例えば高周波回路を単体で評価するときに,ベースバンド回路から出力される擬似制御信号などを出力する)は図10に示すようなバラック基板(簡易な基板)で,高周波回路は図11の上側に示す高周波に対し安定な機能評価用基板を作製して性能を評価する。ここで高周波回路の性能が確認できたら,次に図11に示す下側のような製品に近い小さなプリント基板で試作し,性能が劣化しないことを確認する。開発期間が短い,あるいは高周波回路にモジュールや専用ICを多用するときは,大きな高周波回路機能評価用基板ではなく,最初から図11の下側のように,製品の寸法を意識した小さな高周波回路機能評価用基板で作る場合もある。

図10 ロジック回路や高周波回路制御用治具の例
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図11 高周波回路機能評価用基板の例
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