放射効率がポイントになる小形アンテナ

図C-3 無線LAN用アンテナの具体例
小形のセラミック・アンテナの例。(a)はコイルのようなヘリカル構造,(b)は蛇行したメアンダ構造。忠南国立大学 禹鍾明研究室が製作・撮影した。 (a)ヘリカル構造 (b)折り返しメアンダ構造
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 小形アンテナは,放射抵抗(これが大きいと放射効率が高くなる)の低下や導体損の増大をもたらし,利得が低くなりやすい。同時に,位相に対して極めて敏感になる。このため,使用できる周波数帯域幅が狭くなる。また,アンテナは小形化するにつれ,周囲や環境の影響を大きく受けるようになる。アンテナ素子近傍に存在する物体による利得の低下,近接物体による共振周波数やインピーダンスの変化などが起こる。このため,アンテナの周りには他の部品を近接して配置しないように設計したいが,通常はそうできない。

 同一プリント基板上に電子部品とアンテナを実装する場合は,与えられた設置環境に応じて,アンテナの性能の劣化を最小限に抑えるように配置を考える必要がある。

 なお,小形アンテナの利得を推測できる便利な式を紹介する。アンテナの外形最大寸法をLとすると,そのアンテナの相対利得G(単位はダイポール・アンテナを基準にしたdBd)は,

G(dBd)=8 log{(2L)/λ}によって概算できるという式である(λは自由空間での1波長の長さ)C-2)。アンテナの電気的特性を考慮しなくても,外形最大寸法からアンテナの利得を推測でき便利である。

C-2)進士,「小形・薄形アンテナと無線通信システム」,『電子情報通信学会論文誌(B)』,vol.J71-B,no.11,pp.1198-1205,1998年11月.

電波防護のためにSARを低くする

 人体側頭部のそばで使用する携帯電話機では,電磁波の人体に対する影響を考慮する必要がある。人体方向には電波が強く放射されず,それ以外の方向には効率よく電波を放射するようにアンテナの設置位置を検討しなければならない。人体に向けて照射される規制数値として,C-4に示す携帯電話機の比吸収率(SAR:specific absorption rate)を各国が規定している。SARは,人体が電磁界にさらされることによって,単位質量/単位時間に人体に吸収されるエネルギー量である。

 SARを低くするための設計のポイントは,アンテナと人体の間に携帯電話機の筐体などを挟むなどして人体への照射を少なくすることである。

図C-4 電波防護規制
人体側頭部のそばで使用する携帯電話機に対する各国の電波防護規制を示した。
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 電波防護規制を順守するための携帯電話におけるアンテナの設計や設置位置を簡単に検証できるようなSARのリアルタイム測定のニーズは高い。その一つの例が,図C-5に示すRFIDを用いたリアルタイムSAR測定装置である。当社と韓国・忠南国立大学が,共同開発中である。まだ実用化には達していないが,完成すれば携帯電話機から照射された電波による人間頭部の各部位のSAR値がリアルタイムで観測でき,アンテナ設計段階での有効な測定器となる。また,迅速にアンテナの設置位置を決められるようになる。UWBでは給電点の位相中心点の変動を抑える 従来のアンテナは,狭帯域の一種の共振回路であり,その設計式には周波数(f)や波長(λ)をパラメータとして利用する。しかし,UWB用のアンテナではfやλの値が定まらないので,新たな概念を基にアンテナを設計しなければならないC-3)

C-3)根日屋,小川,『ユビキタス時代のアンテナ設計』,東京電機大学出版局,2005年.

図C-5 リアルタイムSAR測定装置
リアルタイムSAR測定装置。携帯電話機のアンテナ位置を決めるためにRFIDを用いた。忠南国立大学,アンプレット,ビジタシステムが共同研究を行っている。
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 つまりUWB用アンテナは,従来のアンテナを広帯域化するだけではなく,周波数が変化しても放射特性が変わらないように設計する必要がある。特にIR方式では,群遅延特性がバラつかないようにする必要がある。また,波形歪み特性なども低くなるように設計しなければならない。

 設計のポイントは,アンテナ内の多重反射が起こらないような形状を検討し,放射される給電点の位相中心点が変化しない超広帯域アンテナを設計することである。