また,各ブロックの振幅誤差や位相誤差,ジッタ(信号の時間軸方向のずれ),回路マージンなどをdB値で累計したものを機器劣化という。図8にベースバンド回路をハードウエアで実現していたころの機器劣化の例を示す。符号誤り率の理論カーブに雑音配分や機器劣化配分を加味したのが,実際のワイヤレス製品の実力となる注4)。レベル配分や機器劣化配分は,高周波回路のみならず,アンテナやベースバンド回路,ファームウエアまで含めて考える。

図8 機器劣化配分表の例
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 システム設計者は,その時点(時代)で可能な部品を使うことを前提に,各ブロック回路の最善の性能を把握しておく。さらに,製品の低価格化を目指し,どの程度の性能劣化まで容認するかを検討し,各ブロックの設計指針を示す。そのためには,部品情報に常に注意を払っていなければならない。

 一方,技術的に既に完成領域にあるシステム,例えば無線LANのIEEE802.11a/b/gなどのワイヤレス製品については,RFIC(高周波回路のIC)やベースバンドIC,モジュールが出回っているので,その部品の価格や入手しやすさなどを調査し,より安価な方法を選択すべきである。量産数量が少ない場合は,開発費を掛けるよりも,既製部品のICやモジュールを購入した方が安くなる。ただし,性能はその部品やモジュールで決まってしまう。

 これらの検討結果に基づいて,システム設計者は各部分回路を担当する設計者向けに,各ブロックの仕様を暫定的に決める。

注4)ベースバンド回路をデジタル信号処理で実現するときは,機器劣化の考察で主に次の特性を考慮する。ロールオフ・フィルタ特性(送受信),係数丸め誤差,タップ打ち切り誤差,演算量子化誤差,受信レベルが小さいときのA-D変換器のアンダーフロー,大きいときのオーバーフロー,A-D変換器とD-A 変換器の劣化,クロック・ジッタ,雑音,送信D-A変換器のアパーチャ補正誤差,受信A-D変換器のサンプリング折り返し雑音,直交変調器の変調誤差(アナログ直交変調を使う場合),局部発振器位相雑音(デジタル方式に限らない),送受アンプの非線形歪み(デジタル方式に限らない)などがある。