② 製品の機能ブロック図を作成する

 製品の立案ができたら,全体を見渡せるシステム設計者が基礎検討を行い,製品の暫定仕様を決め製品全体の機能ブロック図を作成する。

 基礎検討では,

(a)電波法に定められた規格の理解
(b)業界団体の規格を製品仕様に実装
(c)その規格を実現する機能ブロック図の作成などを行う。

 (a)については,電波法に定められた規格を理解する必要がある。製品化するワイヤレス製品が,販売する国の電波法に合致していなければ,その国でビジネスはできない。また,その製品を販売する前に,受けておかねばならない検定や取得すべき認定についても十分な調査が必要である。製品企画の段階(①)でも電波法に関して調べたが,この段階では最新版の電波法を入手して,より詳細に調査する必要がある。電波法の大枠は変わらないが,細かい点は変更されることがあるからだ。

 (b)は,他社の製品との相互接続性に関係するポイントである。単に電波法や規格を調べるだけではなく,業界団体が策定している規格を知る必要がある。例えば,広帯域移動無線アクセスとして近年,非常に大きな注目を浴びているWiMAXは,IEEE802.16標準規格の中から必要な機能を選び出し,これにWiMAX Forumが新たな機能を加えて規格化した無線ブロードバンド技術であるため,厳密に言うとWiMAXとIEEE802.16は異なる。このようなワイヤレス製品を製品化するときは,業界団体であるWiMAX Forumに加入し,電波法やIEEE802.16規格では分からない製品の規格(例えば,相互接続性やメーカー間の互換性など)も把握する必要がある。

 (c)は,広範囲なワイヤレス通信に関する技術的な知識と勘所が重要になる。近年では部品メーカーが機能ブロック図の例をWWWサイト上で公開しており,参考になる。

 基礎検討を行うときは,全体のシステムを俯瞰できなければならない。システム設計者は,部品情報などにも視野を広げ,設計から製造までの見識を持ち,個別回路の設計経験も必要である。ところが近年,全体を見渡せるシステム設計者が非常に少なくなった。企業としても熟知した技術者を戦略的に育てることが不可欠であるが,そのようなキー・パーソンは定年までその会社で働くという保証はないのが大きな悩みになっている。このような実力のある人材は,同業他社へ転職する人もいたり,以前は高価であった高周波の測定器が安くなってきたこともあって,自ら起業して会社を経営している例も多い。前者の場合はその人材への協力を求めることは難しいが,後者の場合は協業できる。このため,機器メーカーの購買部門は,優秀な技術者が起業した会社の情報を収集するのが大切である。

 システム設計者がブロック図を作成するときは,ハードウエアでもソフトウエアでも,ブロックごとにモジュール化するように意識する。ある一つの機能を複数のブロックにまたがって実現するのは必要最小限にとどめる。近年のワイヤレス製品はシステム面で複雑になっており,その開発には多くの技術者が関与するようになった。長期間にわたる開発では,技術者が途中で退職してしまうことが頻繁に起こり得る。モジュール化しておけば,そのダメージを最小限に抑えられる。

 また,製品が完成した後に修正が発生した場合,モジュール化していれば短期間で改修できる。しかし現在は,微々たる変更でも改修に多くの工数がかかることがかなり多い。例えば,次のようなケースである。

 機器メーカーでは,一つの製品化が終わると,設計者(協力会社の設計者も含む)は別のプロジェクトに入る。この場合,現行プロジェクトの担」ということになる。

 以前は,設計ドキュメントが充実していれば対応できた。しかし現在は技術が複雑になっているので,巨大で入り組んだブロックを作ってしまうと,設計ドキュメントを見ただけでは理解できない場合が多い。

 このような問題を最小限に抑えるため,一人で作業が完結し,他の技術者が見ても理解しやすいシンプルなモジュールを,プロジェクトを取りまとめる担当者(システム設計者)は作るほうがよい。