デジタル・オーディオでは、最終的な高品位なアナログ・オーディオ信号を得るためにD-A変換機能は必要な機能であるが、その中核をなす基幹デバイスがオーディオ用D-A変換IC(以下、Audio DAC)である。Audio DACのメーカーは米Texas Instruments社、英Wolfson社、米Analog Devices社、米Cirrus Logic社などに代表される外資系半導体企業がほとんどである。国内では旭化成エレクトロニクスが最大手として存在する。

 各社のAudio DACのD-A変換方式のほとんどは、ΔΣ変調器をベースにしたものである(図8)。主要機能は、8倍オーバーサンプリング・デジタル・フィルタ、ΔΣ変調器(一般的に64fsや128fsなどで動作)、D-A変換部で構成されている。D-A変換部はスイッチト・キャパシタ・フィルタ(SCF)方式またはカレント・セグメント方式に大別される。各回路へ供給するクロックは、外部から入力するシステム・クロックを基準にクロック・マネージャ回路が生成する。

図8 Audio DACのブロック・ダイアグラム
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 一般に各回路の動作に影響するのは、動作タイミングの基準としている立ち上がりクロックの周期ジッターである。立ち上がりクロックの周期ジッターが悪化しても、デジタル・フィルタはデジタル演算なので影響を受けない。ΔΣ変調器は、量子化ノイズが悪化し、帯域内ノイズ・フロア・レベルの上昇によってノイズ特性が劣化する。その結果、ダイナミック・レンジの特性にも悪影響を及ぼす。また、D-A変換部においては、主に直線性とTHD+Nの特性が悪化する。

Audio DACの特性はジッターで悪化

 Audio DACのアナログ・オーディオ出力信号の性能は、システム・クロックのジッターの影響を受けるD-A変換回路の性能とΔΣ変調器の性能と総合して決まる。D-A変換部とΔΣ変調器の影響度は、それぞれの回路と動作によって異なる。D-A変換部については、SCF方式がジッターの低減機能を持つため、一般にはカレント・セグメント方式に比べて有利とされる。

 ジッターがD-A変換回路の出力するオーディオ信号に及ぼす影響は、模式的にはサンプリング回路のアパーチャ・エラーと近似することができる(図9)。正弦波で理想サンプリング・ポイントt0に対してジッターがある場合、時間軸誤差は振幅誤差となる。アナログ的解析では、図9のΔ部が非直線性誤差をもたらし、THDの悪化につながる。単純計算では、アパーチャ・エラーAeは、ΔV/ΔTの関係から次式で表すことができる。

図9 ジッターによるアパーチャー誤差
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Ae=2πf・tA (f:信号周波数、t:ジッター、A:信号振幅)

 一方、ΔΣ変調器では、64fsや128fsなどのサンプリング周波数のジッターによる不確実性で、ノイズ・フロアーが上昇する。

 ジッターの影響は、アナログ・オーディオ信号のTHD+N特性(対信号レベル、対信号周波数)、ダイナミック・レンジ、SN比などの基本的なオーディオ特性から確認できる。また、出力信号のスペクトラム、FFT解析においても同様にジッターの影響の確認が可能である。FFT測定結果には、ノイズ・フロアーの上昇と高調波の発生という形でジッターの影響が確認できる(図10)。

図10 FFT測定によるジッターの影響
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