ここで受信側において,r1およびr2は,受信信号そのものです。そしてh11,h12,h21,h22という伝搬路の情報が既知であるとすればx1とx2の2次方程式となるため,解くことができます。こうすることで,送信側から送られたx1とx2を分離して復号することが可能です。なおh11,h12,h21,h22を受信側で既知としましたが,これはx1とx2を送信する前に既知の信号を送信することで,受信側でこれらの値を計算して求めます(つまりx1とx2が既知になり,h11,h12,h21,h22が計算できます)。このようにして,MIMOでは送信アンテナに比例して伝送速度が向上しますが,受信側では連立方程式を解くという処理が発生します。

 ここで,式(1)の連立方程式が解を持たない場合について考えてみましょう。この場合は数学的には,

のような場合です。これは送信アンテナ1からの伝搬路と送信アンテナ2からの伝搬路が非常に似通っていることを示しており,連立方程式が二つの解を持ちません。結局,受信側でx1とx2を分離できないことになります。このような事態を避けるために,送信および受信それぞれにおけるアンテナ間隔が重要になり,少なくとも半波長以上の間隔が求められています。

 MIMOは伝搬路の相関性を利用しますが,SDMといわれるように空間を用いた多重方式になります。空間を用いた多重方式としては,ほかにアレー・アンテナを用いて所望の方向にビームを向ける技術があります。そしてこのような手法でユーザー間の多元接続を実現するものはSDMA(space division multiple access)と呼ばれています。iBurstに採用されている方式では,アレー・アンテナなどを用いて指向性のある信号を作り出し,異なるユーザーの情報を空間的に多重します(図1(d))。指向性のあるアンテナを用いて信号の向きを制御する技術は以前から実用化されていますが,SDMAを行うに当たっては複数の端末の中から他の端末への干渉を抑えて信号を送信することになるため,より高度な信号処理が必要となります。

4GやRFID,ミリ波など新分野も活気

 これまで紹介した以外の無線通信の規格を表1にまとめました。もちろんほかにも,今回触れることができなかったさまざまな無線通信の規格が存在しています。 ミリ波帯といわれる60GHz帯を用いた超高速無線PANの検討も,既に始まっています。60GHz帯では,7GHzという広い帯域をライセンス不要で用いることができるため,これをいち早く利用しようと,標準化の動きも活発なのです。

表1 その他の規格の例
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