無線PANとは,身近にある機器同士を直接接続するような利用形態を想定したもので,通信距離は数mから数十mです。携帯機器への搭載や短距離通信を想定しているため,仕様を決める上でも消費電力が低くなるよう考慮しています。Bluetoothが代表例です。

 無線LANは,基本的にはアクセス・ポイント経由でインターネットに接続したり,他の機器と通信を行ったりするもので,通信距離はだいたい100m以内です。IEEE802.11という規格のプロトコルに従うものが広く普及しており,これが無線LANの代名詞になっています。

 無線MANは,メトロポリタンという名が示す通り都市レベル(50km以内)のエリアをカバーするシステムであり,加入者接続網(DSLや光回線)などの末端部分を無線で飛ばすことを想定しています。また,高速移動やハンドオーバー(基地局のつなぎ換え)にも対応しています。普及はこれからです。

 無線WANの代表はセルラー・システム,つまり携帯電話のネットワークであり,無線MANでは想定していない広いエリアにサービスを提供しています。高速移動やハンドオーバーをサポートし,近年では国内のみならず世界各地で一つの端末を利用できるようになってきました。

 なお,ここで“距離”について補足しておきます。無線PANや無線LANでは,機器間の伝搬可能距離として通信距離という言葉を使います。無線MANや無線WANは基地局をまたぐときも,基地局のつなぎ換えによって通信可能なので,サービスを提供するカバー・エリアという言葉を使うことにします。

PAN/LANとMAN/WANに分ける

 通信距離/カバー・エリアで分類すると,無線LANと無線MANの間に大きな差があります。距離はもちろん大きく違いますが,用途や規格の作り方もかなり変わります。

 「無線PAN/無線LAN」の多くは,2.400G─2.497GHzのISM(industrial scientific medical)バンドを利用しています注1)。この周波数帯域で10mW以下の出力であれば,ユーザーは総務省から無線局の免許を受けなくても利用できるからです。現在,電子レンジや医療用機器,アマチュア無線や移動体識別(RFID)などが,ISMバンドの周波数を利用しています。

注1) 無線LANの中でも,IEEE802.11a/nは屋内利用では免許の不要な5.15G ~ 5.25GHzの帯域を利用しています。屋外での利用は,地球探査衛星の電波と重なるので制限があります。無線PANのUWBも3.1GHz以上の帯域を使いますが,免許不要になることが想定されています。これは最大輻射電力が-41.3dBm/MHz以下でW-CDMA携帯電話の約10万分の1と弱いからです。