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第10回:仕事力を高めるための問題解決の考え方と取り組み方(下)

久井 信也=ソリューションサービス研究所
2012/01/20 00:00
出典:日経エレクトロニクス、2011年1月24日号 、 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
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【前回より続く】

問題とは何か,課題とは何か

 問題とは,あるべき姿と現状との差にあります。小さな差であれば問題が小さく,差が大きいほど問題も大きいと判断できます。問題が大きくなれば対応や対策に負荷がかかり,企業の信用や信頼を損なうといった重大な影響を与えることもあります。一度失墜した信用を取り返すことは,容易ではありません。

 問題には① 見える問題,② 探す問題,③予測する問題,という三つの様式があります。① の見える問題とは,問題の状況が明確になっているものを指します。具体的には,仕事の品質の不良や社内外からのクレーム,計画に対するスケジュールの遅れ,目標の未達成などの状態をいいます。仕事の中で問題が発生すると目的に対する阻害要因になり,速やかに発生要因を見つけ出して対策を打つ必要があります。

 見える問題を大きく分類すると,予定された基準や計画からずれてしまった問題(逸脱型問題)と,目標を達成できなかった問題(未達成型問題)に分類できます。

 ② の探す問題とは,現状では特に不具合が発生していませんが,さらに改善したい場合にベンチマークなどによって目標を引き上げる積極的な意図から作られた問題で,問題意識の強さによって見つけ出すものです。これを放置していた場合には,現象が顕在化するまでは気付かない潜在的な問題となります。

 探す問題は,現状を見直して改善する問題(改善問題)と,より積極的に強化したり充実させたりする問題(強化問題)の二つに分類できます。

 最後に挙げた③の予測する問題とは,新規事業や新商品開発などで全く新しい条件を設定し,仕事の進め方や成果に対するリスクを予測することです。探す問題が過去や現状を見直すことに対して,予測する問題は過去や現在の状況に影響されず,未来を想定してリスクを予測します。現時点で発生している① 見える問題と② 探す問題とは,時間的な位置付けが少し異なります(図2)。現状の問題ではなく,将来的に問題となり得ることも想像するために創る問題とも言います。課題と言い換えてもいいでしょう。

図2 三つの問題型の時系列的な位置付け
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 予測する問題を分類すると,新商品や新規事業の開発に伴って発生する問題(開発型問題)と,将来の危険を予測して準備しておく問題(回避型問題)に分類することができます。

問題発見の在り方とは

 問題を発見するための取り組み姿勢としては二つあります。一つは,問題によって仕事の成果を阻害させないという目的や目標に対する意識が強いこと。もう一つは,問題を見逃さないという関心の高さや,仕事に対する責任の強さにあります。仕事の成果に対して無関心だったり無責任な姿勢だったりするのでは,問題を発見することはできないでしょう。たとえ目の前に問題が転がっていても問題を認識する意識や意欲がなければ,ただの一つの現象としか目に映りません。

 仕事に対するしっかりとした気の持ち方や心構えは基本中の基本ですが,それだけでは不十分です。問題として認識するには,何らかの基準や規則が必要です。仕事の計画書は,こうした基準や規則を明確にするという位置付けがあります。例えば品質の問題では,製品が設計通りの機能や性能を発揮していなければ問題であることが明確になります。

 開発コストであれば,計画した金額を超えて消費していれば経費予算を超えているということで,利益性の視点から問題であると明確になります。スケジュールで言えば,計画した日程より開発が遅れていると開発活動に何らかの問題が発生していることが分かります。つまり,計画が明確でなければ問題の判断基準も不明確になり,問題認識の甘さや問題の見過ごし,対応の遅れを招きます。結果として,仕事の出来栄えに大きな悪影響を及ぼすことになります。

問題を客観的に把握するスキルも必要

 問題発見には意識の強さや関心の高さが大きく影響しますが,問題を客観的に把握するためのスキルも必要です。そのスキルとは,数値やデータなどから問題の要因を分析し,問題の本質を見極めるスキルです。仕事が計画通りに進捗しているとしても,状況を客観的かつ正確に把握するには,数値やデータなどから問題を読み取るスキルが必要になります。

 日ごろからあらゆる仕事の管理は,計画を基準に進めることが基本です。これが問題の発生を未然に防ぐことにつながります。そして,管理が科学的で客観的であるためには,個人の価値観による判断ではなく,数値やデータに基づいていなければなりません。数値やデータによる結果は,他の利害関係者への説明にも説得力があり,理解してもらいやすいものです。

 また,もう一つの問題発見の在り方として,リスク・マネジメントがあります。リスク・マネジメントの基本は,計画の段階でリスクを予測することです。仕事のすべてのプロセスにおいて予想されるリスク項目を洗い出し,整理したものをリスクリスト(リスク一覧表)として文書化します。リスクリストの作成には,過去に行った同種の仕事やプロジェクトなどの経験・教訓を参考にします。プロジェクトなどでは,最初に参加メンバー全員に計画と役割の分担について説明します。

 計画説明の一環としてリスクについても説明し,どのようなことをリスクとして捉えているか,メンバー全員が情報を共有しておくことが重要です。メンバー全員のリスクに対する感度を高めておくことが,問題の兆候を見逃さず早期に発見することにつながります。

 プロジェクトの進捗報告会議などでも,リスクリストに明示したリスク項目の存在について情報を交換することが,問題への認識を高めます。対処したリスク項目や,新たなリスク項目の追加登録といったリスクリストの更新も,問題の影響を極小化するために必要な管理の項目です。

問題を探索・予測して解決

 問題解決への取り組み方の基本としては,問題が発生してから行う後処理型よりも,問題発生を予防する探索(探す)型や,さらに将来を見越した予測型の取り組みが最も効果的な方法と言えます。

 問題の発生に大きな関わりを持つのが,仕事の計画や方針の在り方です。いかなる仕事にも必ず目的や目標があります。これらを達成するために計画を立て,具体的に行動する実行施策を設定します。いずれの仕事でも計画が重要で,納期,品質(仕事の出来栄え),費用(コスト)という三つの制約条件の範囲で仕事の目的や目標を達成することが基本です。

 目的や目標の達成を阻害する問題が発生する背景には,仕事の計画や方針に問題が含まれているケースが多くあります。従って,発生した問題への取り組みだけでなく,計画そのものや管理の在り方,仕事の進め方などにも着目した対策を講じなければなりません。

 商品開発などの業務は,一般にプロジェクト的に進めます。例えば新商品開発は,最初に企画決定したものが開発段階から製造段階,そして新商品の販売,サポート段階へと進んでいきます。商品作りにおけるプロジェクトで問題を発見するには,計画を作成する段階で施策項目の目標値と実行スケジュールとの結果関係を把握するチェック・ポイント(観察の時期)と,目標値を設定します。確実にチェックしているかどうかを報告するルールや,会議などでの進捗状況と問題点の報告の義務付けなども設定します。これによって,報告された問題点の影響度や重要度,対策の優先度などを検討し,その後の対応計画に反映します。また,他のプロジェクトへの教訓としてフィードバックすることも可能です。

マネジメントのサイクル「PDCA」

 前述した① の見える問題はすべてのプロセスで発生し,最も多く見掛けます。例えばプロジェクト活動の最終段階で問題が発生した場合は,冒頭の事例のように多くの利害関係者に悪影響を及ぼします。そうならないようにするためには,各プロセスの段階で問題が小さなうちに解決することです。

 ②の探す問題への取り組みは,見える問題のように,既に問題の影響が出ている段階ではありませんが,放置していると見える問題と同様になります。積極的な改善や改革によって問題の芽を摘み取り,発生を防止することが必要です。

 定型業務であってもプロジェクトのような非定型業務であっても,計画を立てて(Plan),施策を実行(Do),そして結果を確認し(Check),フィードバックして計画を是正する(Action)ことが大切です。これらは頭文字を取って「PDCA」と呼びます。マネジメントのサイクルともいわれ,管理の基本となっています(前ページの図3)。

図3 マネジメントのサイクル「PDCA」
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 問題の解決に取り組む際,対策計画が効果的な内容であることはもちろんですが,解決施策を着実に実行するプロセスの管理も重要です。対策計画は良くても,実行する人が理解していない場合もあります。このようなときは,仕事の進め方の基本のPDCAが適切でないことや,計画実行のマネジメントとコミュニケーションの問題が根底にあることが多いようです。

 問題が発生したプロジェクト活動を分析すると,利害関係者とプロジェクトの関係,プロジェクト・マネジャーとメンバー,あるいはメンバー間のコミュニケーションの悪さなど人間関係の問題が原因となっていることも多くあります。プロジェクトの生産性がコンフリクト(ぶつかり合い)のために低下するなど人と人との関係に起因している問題は,技術的な対策では解決につながりません。人と人,人と仕組み,人とモノ,モノとモノ,論理と論理など,問題のおおむねの根源はこれらの組み合わせの“間”の関係にあるようですが,問題の発生がどこにあるのか要因をよく分析し,根源を見極めることが大切です。

問題の取り組みに優先順位を付ける

 仕事を行うときの心構えの要点は三つあります。その仕事がどういう意味を持つのか,① 全体を見渡すこと。次に,他の仕事との関係において②優先順位付けをすること。そして,その仕事に関して③どのようなリスクが存在するかを予測すること,です。

 この三つの心構えは三位一体として考える必要があり,すべての仕事に共通することですが,問題解決には他の人間関係のスキルや,属している業務分野の専門的なスキルも必要です。仕事力を構成するスキルなどについて図4に示します。

図4 仕事力の構造
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 問題が発生した場合の取り組み方としては,速やかに行動を起こして対策を講じることが原則ですが,現実的には問題への対応だけが仕事ではなく,予定された進行中の業務や,既存の他の問題もあります。問題解決の仕事には計画された業務と違って,通常以上の力が必要になります。問題解決力は,制約された条件(品質,期限,費用など)の中で,限られた資源(人,モノ,金,情報など)を効果的に駆使し,問題を解決する仕事力とも言えます。

 問題が発生した場合,取り組み方のプロセスを経ずに性急な対策に走ると,部分的には妥当でも全体的には妥当でないことも起こります。問題解決の取り組み方のプロセスは次の通りです。① 仕事全体との関係を見渡し,②問題の大きさを把握し,③対策の緊急性や,④他の業務業績に与える影響,⑤解決の難易度,を見極めます。次に,⑥解決のための対策案を創出し,⑦解決策による新たなリスクや,⑧解決結果の評価者の価値観などを考え,問題案件を取り巻く環境を総合的に評価し,優先順位を付けて取り組むことが大切です。仕事の優先順位付けは問題解決の仕事だけではなく,あらゆる仕事にも通じます(図5)。

図5 問題の優先順位付けの考え方の例
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問題の再発を防止する仕組みを作る

 仕事の中では一つの問題を解決しても,また次の問題が発生します。新しいことに取り組めば,それに付随した新たな問題が生じます。世の中が進歩するということは,一つひとつの問題を解決して乗り越えて前進する─この蓄積であると言えます。

 大切なのは解決力をレベルアップしていくことはもちろんですが,問題の真の要因に対策を講じ,同じ問題が再発しないような恒久的な解決策(歯止め策)と標準化を備えることです。標準化とは,個人的な仕事の品質にとどめずに,組織が仕組みとして再発を防止することを意味します。この考え方は,モノづくりの仕事での品質管理の基本で,PDCAに連係して「SDCA」といわれています。SDCAのSはStandardization(標準化)の頭文字です。標準化では,一度定めても常にスパイラルアップの改善活動が重要であり,問題解決→標準化→維持の活動→改善の活動→標準の改定,という流れを「標準化のプロセス」と言います。

 電子技術者の仕事では,電子回路の設計や組み込みソフトウエアの開発などの要求仕様文書に基づいて,論理的に展開する仕事があります。これらの仕事では視認性が低いという特殊な事情から,問題の見つけにくさがあります。また,電子技術者が携わる業務の場合,問題の発生要因が機械的な精度や構造の問題ではなく,携わる人間の考え方やスキルに問題があることが多いため,恒久的な解決策の標準化の在り方も“モノ”だけではなく“人”に求める必要もあります。

 多くの企業ではヒューマン・エラーを防止するために,規則や規定などを作ってルール化することで仕事の品質を高めています。加えて,問題に関する情報を共有化したり,問題解決活動で得た教訓を人材育成教育の一環として浸透させることも重要です。

 

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