【前回より続く】

抜けや漏れのチェックには視点図を

 次に,視点図について解説します2)。視点図は視座図に類似した図形ですが,目的を達成する手段に抜けや漏れがないようにするために作成する図です。視座図との違いは,中心にあるものごとや事象から引き出して見るという意味で,矢印の向きが外向きになっていることです。視座図で明確にされた利害関係者のものの見方を想定し,ある事柄に対してどのような切り口で見るかを整理するときに作成します。

2) 上級SE教育研究会,『SEのための仕事術心得ノート』,日刊工業新聞社,2004年2月.

 図3では,最新鋭工作機械の導入という事例を取り上げてみました。視点図は,図2の視座図でまとめたさまざまな利害関係者が,どのようなことに注目しているかについて整理するものです。企画の提案書作成やプレゼンテーションを行うことを想定してください。

図2 視座図の例
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図3 視点図の例
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 提案先に対してできるだけたくさんの視座で考え,たくさんの視点を抽出し,主要な利害関係者の立場にある人がどのようなことを重視しているかを事前に想定して対応するのと,一つの立場や一面的な見方で,“出たとこ勝負”で対応するのでは,差が大きくなります。相手の立場に置き換えるとどうなのか,相手の価値観に訴求しているかについて,常に考える努力と工夫が大切です。視座・視点を多面的に考えることが,利害関係者の価値観をしっかり把握することにつながります。いずれの図法も一人で作成できますが,チーム・メンバーなどで多面的な意見を抽出して作成した方が,より良いものができるでしょう。

概念と言葉のギャップを埋める

 仕事力の構成要素として,視座や視点,価値観を考えることの重要性は理解できたでしょうか。しかし,実際の仕事のコミュニケーションの中では,ゆっくりと視座図や視点図を書けないはずです。このような場合の補完策として,会話の内容を図で表現してみましょう。

 複雑な話を「それは,こういうことですか」「このように理解したのですが,間違っていませんか」というように,相手の意思を図や文章で書いて確認するのです。多人数の場合はホワイトボードなど,1対1の場合は手持ちのノートなどを使用して,相手がよく見えるように書き示します。実際,こうすることで間違えて解釈していたことに気付き,失敗から救われたという例もたくさんあります。複雑な会話もできるだけ図示して表現すると,分かりやすくなります。

図4 概念チャート図の例1)
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1) 久井ほか,『SEのための営業技術心得ノート』,日刊工業新聞社,2005年6月.

 例えば「在庫管理」という言葉を聞いただけで,相手の考えていることを相違なく理解することは,ほとんど不可能でしょう。図4に示したように,一口に在庫管理と言っても,企業の仕組みや歴史,風土が違うと理解の仕方も異なります1)。しかし,それを図にして確認し合うことで,抜けや漏れがないことや本当に重視していることが分かりやすくなります。

表2 概念チャート図の作り方1)
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 この手法を「概念チャート法」といいますが,今風には“コミュニケーションの見える化”,つまり情報伝達の視覚化になります(表21)。特に難しい方法ではありませんが,ただやたらに図示化するのではなく,第2回(2010年11月1日号)で解説した論理的な手法も活用すると,より一層お互いの理解度が高まります。概念チャート法は,提案書作成やプレゼンテーション,情報の整理,ディスカッションのポイントの明確化,相互理解など,さまざまな場面で活用できる手法です。

1) 久井ほか,『SEのための営業技術心得ノート』,日刊工業新聞社,2005年6月.

 最後に今回のポイントをまとめます。

1)仕事の失敗の大半は,必要な情報を把握できていないことが原因である。

2)視座・視点を多面的にとらえることで,必要な情報の抜けや漏れ,誤解を防止できる。

3)提案書作成やプレゼンテーションには主要な利害関係者の価値観を知ることが重要になる。

4)利害関係者の価値観を把握するには視座図と視点図を活用し,不足している点は実際の行動で明らかにする努力が必要になる(理屈だけでは情報は得られない)。

5)相手の言葉の情報で不確かな点は図示化して確認することで,間違いや勘違いを防止できる。