【前回より続く】

 このうち原因追究型の特性要因図を使って要因の影響度を検証する場合は,要因ごとにデータを収集し,分析します。分析の結果,最も影響度が高い,あるいは大きな要因項目を原因とします。その原因への対策案を抽出するときは,対策案抽出型の特性要因図を活用します。いずれの特性要因図も,図に記入したことは結果と要因の因果関係を探るための仮説であって,事実ということではありません。仮説として取り上げた要因を検証する手掛かりとして用います。

 特性要因図は一人で作成できますが,数人のチーム・メンバーが参加して作る方が効率的・効果的です(図5)。この図を作成することで既存の知識や経験から要因を導き出しますが,メンバーの知恵を結集して新しい要因を抽出する作業そのものが,今回のテーマである“ものの見方と考え方”を広げることになります。特に,因果関係があると判断した要因項目と結果特性の関係を数値データに基づいて検証すると,その関係性の強さがはっきりします。データを捕捉できていない項目は,データをあらためて収集する必要があります。代用できるデータがあればそれを使っても構いませんが,分析結果は参考データとして扱います。

図5 特性要因図の作成方法の例
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複数の機軸を持つ

 以上述べた特性要因図のほか,よく使われるものとして二元表,マトリクス図,散布図による分析方法があります。あるクラスの児童のテスト結果と関連する要因を考えてみましょう(図6)。

図6 散布図法を用いて子供の成績と影響要因を分析した事例
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 散布図の作成は,結果系データの目盛りをY軸に,要因系データの目盛りをX軸に取ります。ここでは,結果である成績をY軸,予習・復習の勉強時間をX軸にします。その結果,相関関係の有意性が明確になれば,特性に及ぼしている要因との関係が深いと判断できます。その要因項目に分析をさらに加えることによって,特性に与える影響度が明確になります。こうした要因分析を繰り返すことで,問題の本質を見出すことができます。

 ものの見方・考え方はこのようなときにも必要ですが,技術者が扱う問題は技術で割り切れることばかりではありません。社会現象や人間の価値観に関連する問題にも遭遇します。どちらかといえば,技術者は“もの”系の問題解決には強いが,“こと”系の問題は苦手とする傾向があるようです。その理由は,“もの”系の場合は数値で明確になる点や,“もの”相手の問題にはブレがないということがあります。一方,“こと”系の問題は,複雑な社会現象や人間関係の思惑,価値観などが関連し,とらえ方が難しいものです。そのときの状況によって,価値判断基準が変化するという側面もあります。

 技術者にとって苦手な“こと”系の問題に強くなるには,自分の中に判断の切り口,つまり判断の基軸を持つことが重要です。この基軸がしっかりしていると判断の迷いも少なくなり,周りの評価を気にして悩むこともなくなります。

 基軸は1本ではなく,多様な問題にも対応できるように多軸であることが望ましいとされます。複数の基軸は実際の経験から会得できますが,先人の経験や教訓から知識として学び取れることも多々あります。正しいものの見方や考え方を身に付けるためには,ものごとに直面したときに自分なりの判断を下すことを習慣化するのが良い方法です。上位者や同僚の判断は参考になりますが,まずは自分で考えてみることが大切です。周囲の基準をうのみして判断したり,ステレオタイプといわれる紋切り型の基軸で判断したりするのではなく,自らが熟考することで初めてものの見方や考え方,判断力が身に付くのです。

グローバルな視野を持つ

 仕事力を高めるには,自分を取り巻く情勢を客観的に見ることも重要です。仕事をする者にとって,企業組織に所属することは大きな利点となります。安定した仕事環境を得て,長期的な視点から仕事に取り組むことができるからです。自分の能力で不足している点があれば,組織の力を活用できます。つまり,個人で仕事をする場合の弱点を組織力で補えるのです。言い換えれば,チームワークによる相互補完が可能になります。

 ただし,大きな企業組織に在籍しているとその利点を忘れ,満たされた現状に埋没しがちになるのも事実です。これでは,井の中の蛙になってしまいます。閉鎖的な視野だと良い仕事ができないのは,技術者に限ったことではありません。今日のグローバル社会の状況においては,自分を取り巻く狭い範囲でものごとをとらえていては判断を誤ります。情報通信ネットワーク・システムの進化を見ても分かるように,電子技術の発達はまさに日進月歩です。

 社会進歩の背景には,必ず新技術や新素材などの発見・発明があります。そして,それらを基盤として新しいニーズや新しい市場が生まれます。技術者も身近なところから変化の流れを感じ取り,その本質をつかむ必要があります。新しい技術の潮流を知り,その本質を正しく見据えるものの見方や考え方が仕事力の向上につながります。

 これまで述べてきたように,技術者には専門的な立場から技術に深い関心を持ち,造詣があることが求められます。しかし,人間社会あるいは企業活動において,技術の活用はあくまでも手段であり,目的ではないことも知っておかなければなりません。誤解を招かないためにあえていっておきますが,技術が重要ではないということではありません。技術の活用によって開発された製品も,利用者に役立つことで商品としての価値を生み出します。これが本来の目的です。つまり,活用されている技術や製品がいかに優れていても,商品として価値を発揮できていなければ目的を達成したとはいえないのです。

 技術者の思考の特性として,どうしても技術に傾斜するのはやむを得ません。技術者も経験を積んで企業人として成長し,やがて管理者や経営幹部となるにつれて,仕事力の重点が技術から経営にシフトしていきます。組織人としての期待や役割が変わっていくことになります。

 技術者や営業担当者が当面の仕事をこなすための仕事力は当然として,視野を広く持ち,思考の幅を拡大しておくことは大切です。現状に埋没していると,なかなかその能力は開花しません。将来にもつながるものの見方や考え方を身に付けるためには,日ごろから社会のさまざまな事象に関心を持ち,その本質は何か,その影響はどのようなものかを考えることを習慣化するのがポイントです。

 現在は日本国内の動向だけではなく,むしろ諸外国の動向によって仕事の在り方も変容する時代になっています。このような時代に本質をどのように把握するかといった,独自の判断の基軸を持つように心掛けることが大切です。