2007年1月,PHSを含む携帯電話の契約数が国内で1億件を突破し,国民1人1台時代に到達した。1991年に容量が150ccのムーバ(mova)が発売されて以来,携帯電話機の技術は小形軽量,長時間動作の方向へ一気に加速した。

 この間,半導体プロセスは1μmから数十nmに微細化が進み,いまや数個のLSIとパワー・アンプ(PA)のチップセットで携帯電話機が構成されている。微細化による高速化と低消費電力化が,技術革新を促すきっかけとなり,古い技術を見直し新しい技術を生み出す試みがなされている。主にデジタル処理の分野であるが,アナログやデジ-アナ混合のものもある。デジタル携帯電話機におけるダイレクト・コンバージョン受信(DCR:direct conversion receiver)方式や,分数分周周波数シンセサイザはその代表といえるものである。VLIF(very low intermediate frequency,超低中間周波数),ポリフェーズ・フィルタによるイメージ除去処理など新しい技術が登場する中で,電池の長寿命化に向けた技術の一つとしてポーラ変調にも注目が集まっている。

なぜポーラ変調か

 ポーラ変調(polar modulation)は,アンテナから送信する信号の振幅および位相の歪みを補償する技術の一つである。飽和PAを利用した場合でも,ポーラ変調を利用することで線形な増幅が可能になる。この用語は最近よく使われるようになったが,回路の方式がまだ具体的に定義されているわけではない。ポーラ(位相と振幅)を処理するアーキテクチャ全般が,ポーラ変調と呼ばれている。

 では今なぜポーラ変調かの問いには,まず携帯端末において当然低コスト化への要求が非常に強く,加えて長電池寿命が求められることが挙げられる。ポーラ変調はこれらの解決策の候補となる。携帯端末は仕様上,W-CDMA端末で300mW,GSM端末で2Wの最大アンテナ出力が要求される。ところが実際の使用環境では,その程度の出力を要求するほど基地局が離れていないケースが多い。図1に示すように,確率的にはほとんど10dBm(10mW)以下の送信パワーで行われている1)。携帯端末のPAは最大パワー(1W級)で設計されており,このときの電源効率は約50%と高い。しかし,このまま送信パワーを10mW以下に下げると,電池の消費は減るが効率は数%以下に落ちる。このとき高い効率を保つことができれば,さらに電池寿命を延ばすことができる。

1)Fowler, T. et al.“, Efficiency Improvement Techniques at Low Power Levels for Linear CDMA and WCDMA Power Amplifiers,”2002 IEEE Radio Frequency Integrated Circuits Symposium Digest, pp.41―44, Jun. 2002.

図1 通話時におけるPAの出力レベルの確率
CDMAの規格IS-95を定めるときに検討された携帯端末PA出力の確率。実線が郊外地,破線が市街地での状況を示している。アンテナ出力は,PA出力より最大5dBの損失があると仮定している。
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デジタル変調と低歪みリニアPA

 デジタル無線通信に利用するPAは,一般に非常に歪みの少ないリニアな特性が要求される。ところが,低歪みのA級アンプは効率が悪い。高効率化にはC~F級動作のアンプの利用が考えられるが,飽和形であり振幅を再現しない。現在の携帯電話機では,効率と線形性の両面から主にAB級のPAが用いられている。