アナログ エレクトロニクスを支える基盤技術
 

第2回:オーディオ用D-A変換回路の性能と音質(中)

河合 一 = 日本テキサス・インスツルメンツ
2011/08/29 00:00
出典:日経エレクトロニクス、2006年11月20日号 、 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
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 D-A変換LSIの主要な仕様の定義と評価方法,そして音質との関係を考察する。デジタル・オーディオの実設計において,THD+N(全高調波歪みと雑音の和)やダイナミック・レンジ,S/Nなどに代表される主要な仕様が品種選択の判断材料になる。加えて,クロック・ジッタや電源構成,低域通過フィルタ,信号経路などLSIを実装する際に重要となる要素を十分検証しなければならない。このような総合的な音質評価・判断は機器設計者にとって重要な業務である。

主因はTHDか,+Nか

 D-A変換器の主要な仕様としてまず挙がるのが,THD+N特性である。THD+N特性はデバイスの非線形(非直線性)歪みに起因して発生する高調波歪みと,雑音の和と定義される。高調波歪みとしては,基本波信号周波数に対して大体7次程度までを取り上げる。一般的なD-A変換LSIでは,信号レベルがフルスケールである0dBFSにおいて,入力信号周波数が1kHzでのTHD+Nの標準値と最大値を仕様として規定する。近年では,CD-DA方式で使うサンプリング周波数44.1kHzでの値に加え,DVDにおける同48kHz,96kHz,192kHzの各動作条件に対応したものも併記するのが一般的になっている。

 THD+N特性は,性能の目安として最も重要な要素であることは間違いない。しかし,THD+N特性はその値自体,例えば0.0015%という値だけでD-A変換LSIの良しあしを判断するのはやや危険といえる。ひと口に0.0015%のTHD+N特性といっても,THD,つまり非直線性歪みが主要成分なのか,あるいは+Nで示す雑音成分が主要なのかによって,聴感が異なるからだ。実設計時に,全高調波歪みが主因なのか,あるいは雑音成分が主因なのか,そしてそれぞれの度合いはどのくらいなのかを検証し,把握しておく必要がある。

 オーディオ機器に一般的に使っている当社製1ビット型品とマルチビット型のPCM1704,そしてAdvanced Segment型の「PCM1792A」を例に取り,D-A変換方式ごとにTHD+Nの主因を検証する。0dBFS時の再生波形と歪み波形から,歪み成分と雑音成分を評価したところ,1ビット型品は歪み成分と雑音成分が同程度かついずれも大きく,マルチビット型品では雑音成分よりも歪み成分が主に,Advanced Segment型品は歪み成分と雑音成分が同程度でいずれも小さいといった結果であり,方式別の傾向が見られた(図1(a))。-60dBFS時のものを評価したところ,雑音量の差に違いはあるものの1ビット型品とAdvanced Segment型品はほとんど雑音成分が支配的であり,マルチビット型品は雑音成分に加えて歪み成分も確認できた(図1(b))。

図1 雑音成分か歪み成分か,D-A変換方式によって異なる主成分
D-A変換方式ごとに,信号レベル再生波形と歪み波形を比較した。ΔΣ型(1ビット型)も当社品を使っている。次数は4次,サンプリング周波数は64fsである。(a)は,24ビット・データを用い,信号レベルが0dBFSでの波形である。一般的な1ビット型品では雑音成分と歪み成分がいずれも大きい。マルチビット型品(PCM1704を例にした)では,雑音成分よりも歪み成分が主となっている。Advanced Segment型品(PCM1792を例にした)では雑音成分と歪み成分の比率は同程度である。信号レベルが-60dBFSになると,一般的な1ビット型品とAdvanced Segment型品は雑音の大きさは異なるがいずれも雑音成分が主である(b)。マルチビット型品では,雑音成分に加えて歪み成分も確認できる。
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量子化雑音がTHD+Nに影響

 THD+Nを評価する際は,再生するオーディオ信号自体の量子化ビット数を考慮することも重要だ。24ビットD-A変換LSIの場合,元の信号が理想的な24ビット信号であることが実設計上の重要なファクターになる。DVD-Audioでは録音されているオーディオ信号のフォーマットは24ビット(テスト・ディスクを除いて,24ビットの精度があるかどうかは別として)なので,規定仕様をそのまま適用できる。

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