オペアンプで現在主流となっているモノリシック型は,半導体プロセス技術とプロセス以外の製造技術,回路技術,パッケージング技術の四つの技術によって支えられている。後編では,チョッパー・アンプやオートゼロ・アンプなどの回路技術を中心に解説してもらう。

 現在は,1チップでオペアンプを実現する「モノリシック型」が主流だ。このモノリシック型の電気特性を大きく左右するのは,① 半導体プロセス技術,② プロセス以外の製造技術,③ 回路技術,④ パッケージング技術という,4種類の技術である。前編では① と ② について解説したが,後編では③ の回路技術を中心に説明する。

 回路技術の中で,オペアンプのDC特性改善に大きく貢献したのが「チョッパー・アンプ」である。このチョッパー・アンプにより,温度ドリフトが原因で生じる「入力オフセット誤差」の変動を大幅に抑制できるようになった。入力オフセット誤差とは,オペアンプの入力差動増幅器において,差動ペア・トランジスタ間で生じる動作点のずれを指す。二つのトランジスタは,動作点(ベース─エミッタ間電圧)が一致するように設計されているが,実際には完全に等しくできないことから生じる誤差である。

 前編で解説した「デジトリム」などのトリミング技術で補正できる入力オフセット誤差は,オペアンプのイニシャル時に既に存在するものだけである。一方,動作時に発生する温度ドリフトが原因で生じる入力オフセット誤差をトリミングで解決することは難しい。この温度ドリフトによって生じる入力オフセット誤差は,高い精度や高い利得を求めるオペアンプでは特に大きな問題となる。この課題をチョッパー・アンプとオートゼロ・アンプで解決する。

図1 チョッパー・アンプの概略図
チョッパー・アンプでは,入力したDC信号をいったんAC信号へと変換して増幅し,再度DC信号に変換する。DCからAC,ACからDCへと変換する際に,スイッチを利用する。
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 チョッパー・アンプはもともと,真空管オペアンプの時代に考案された回路技術を基にしたものだ。オペアンプは基本的に,DCから信号を増幅する。一方,チョッパー・アンプでは,アナログ・スイッチで構成したチョッパー回路で,DCの入力信号を一時的にAC信号に変換する。このAC信号を次段のAC信号用アンプ回路によって増幅した後,出力段でチョッパー回路と同期復調を行う。これにより,DC信号に戻す(図1)。一時的に変換するAC信号には,オフセット電圧は理論的に存在しない。つまり,一度AC信号に変換することで,温度ドリフトによって発生する入力オフセット誤差を取り除く。

 ただし,利点ばかりではなく,課題もある。チョッパー回路の弱点は,チョッパー回路のスイッチング周波数によって,オペアンプ全体の入力帯域が制限されてしまうこと。このため,チョッパーのスイッチング周波数以上の広帯域のアンプを作ることが難しい。チョッパー・アンプの種類によって異なるが,多くの場合,その信号帯域は数kHzと狭い。

 加えて,AC信号を増幅するオペアンプ(ACアンプ)の前段と後段において,DC信号を処理する回路でオフセット電圧が生じる恐れがある。また,ACアンプは回路構成上,入出力が逆極性となる反転アンプとしてしか使用できないという制約がある。

2種類の回路を組み合わせる

 チョッパー・アンプにおける信号帯域の狭さ,DC信号を処理する回路でのオフセット,反転アンプとしてしか利用できないといった課題を改善したのが,「チョッパー・オートゼロ・アンプ」である。同アンプは,単純にチョッパー・アンプの改良型というよりも,全く新しいオペアンプと考えた方がよい。