電子機器から放射される電磁雑音。これをEMI(electro-magnetic interference)と呼ぶ。電子機器には、EMIに関する規制が世界の国や地域で定められており、放射レベルを規制値以下に収める必要がある。さもないと、電子機器をその市場に投入することはできない。このため、電子機器メーカーでは、EMIを規制値以下に収めるべく、「EMI対策」という作業が日夜行われている。

 EMI対策は、電子機器の設計/開発の初期に行われるプリント基板設計の段階から始まる。しかし、この段階で放射雑音を抑える有効な対策を取ることは難しい。このため、試作品を製造した後にEMI対策を打ったり、最悪の場合、量産品に対してEMI対策を施す必要に迫られたりすることもある。

 一般に、電子機器の開発/設計作業が進むにしたがって、EMI対策の自由度は小さくなる(図1)。基板設計の段階であれば、LSIの場所や配線の経路を変更したり、EMIフィルタやコンデンサといった対策部品を追加したりするのは簡単だ。しかし、作業が進み、試作品が完成する段階になると、LSIの場所や配線の経路はもう変更できない。対策部品の追加も場所が限定される。量産品がほぼ完成する段階になれば、残された対策手段はほんのわずかとなる。大幅に限定された個所への対策部品の挿入や、機器全体の金属遮蔽などだけになる。つまり、電子機器の開発/設計作業が進むにしたがって、EMI対策に費やすコストは高くなってしまう。

図1 EMI対策の自由度とコスト
電子機器の設計/開発が進めば進むほど、EMI対策の自由度は小さくなり、コストは高くなる。このため、EMI対策はなるべく早期に実行した方がいい。
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 従って、電子機器の開発/設計の早い段階で何らかの手を打つ必要がある。それには、各種計測器とシミュレータ(ソフトウエア)を駆使して、電子機器をさまざまな角度から協調測定/評価する必要がある。その協調測定/評価の結果に応じて、対策を打てばいいわけだ。それでは、どのような協調測定/評価が必要なのだろうか。実は、EMI対策において必要な協調測定/評価の項目は多岐にわたっており、「これとこれ」といった具合に特定することはできない。そこで、ここでは現在、デジタル・エンジニアを悩ませているEMI関連の課題を三つ紹介し、それらの問題を解決する協調測定/評価方法を紹介しよう。

差動伝送路にも注意が必要

 一つめの課題は、差動伝送路からの放射雑音である。最近、パソコンやデジタル民生機器の入出力インタフェースが高速化、大容量化している。このため、シリアル・インタフェース技術の採用が相次いでいる。パラレル・バス信号をシリアル信号に変換して、数Gビット/秒と高速な伝送速度でデータを送る技術だ。ただ、従来のシングルエンド伝送技術では高速化できない。そこで、高速なシリアル・インタフェースには差動伝送技術が導入されている。USBも、シリアルATAも、HDMIも、差動伝送技術を適用した高速シリアル・インタフェースである。