デジタル民生機器の開発現場でトラブルが増えている。機器内部で取り扱うデータ量が増大しているため,データ伝送速度が高まっているからだ。伝送している信号はデジタル・データに違いない。しかし,その実体はマイクロ波帯の信号にほかならない。

 マイクロ波帯に対応した電子機器設計やプリント基板設計については,既に通信業界や,コンピュータ業界,航空宇宙業界などで確立されている。しかし,この確立された技術を,そっくりそのままデジタル民生機器の開発に転用することはできない。コストが高すぎるからだ。例えば,通信機器などでは,10層を超える多層プリント基板を使うケースが決して少なくない。しかし,デジタル民生機器ではコストの観点から,両面プリント基板や4層プリント基板の使用が求められる。

協調設計がキーワードに

 最近,デジタル民生機器開発におけるトラブルの発生を未然に防ぎ,なおかつ低コスト化を実現する方策として,「協調設計」というキーワードに対する注目度ががぜん高まっている。協調設計とは,従来は別々に設計していた設計要素を,関連しているものと取り扱って設計する手法のことである。

 例えば,半導体チップ(IC)とパッケージ,プリント基板はこれまで,それぞれ別々の要素として独立して設計が進められることが多かった。しかし,半導体チップから出力された高速デジタル信号は,パッケージとプリント基板を通り,別の半導体チップへと送られる。高速デジタル信号の立場からみれば,半導体チップ,パッケージ,プリント基板を別々の要素として扱う妥当性はない。一つの伝送線路として扱うべきである。

 そこで,半導体チップとパッケージ,プリント基板を関連したものと取り扱って設計を進める協調設計の注目度が高まってきたわけだ。これらの設計作業を協調させて進めれば,価格対性能比を最大化したり,設計期間を短縮したりすることが可能になる。

もう一つの「協調」

 「協調設計」は,デジタル民生機器の開発には不可欠―――。そうした意識はかなり浸透してきたといって過言ではないだろう。しかし,デジタル民生機器の開発において求められる「協調」には,もう一つあることを御存知だろうか。それは,「協調評価」である。電子回路や伝送線路,プリント基板などを設計した際には,それが正常に動作することを評価/確認する必要がある。正常に動作しなければ,トラブルの原因を特定し,何らかの改善を施さなければならない。トラブルの原因を探るために,確認/評価すべき特性や項目は多岐にわたる。伝送信号が高速なだけに,時間軸のデジタル信号を観測するだけでなく,周波数軸で観測することなどが欠かせないからだ。しかも,高速の伝送信号から放射される雑音(EMI)については,測定だけでなく,伝送線路シミュレータや電磁界シミュレータなどのツールを利用して評価,検証することも求められる。

 トラブルの原因を究明するために利用しなければならない計測器やツールは非常に多い。例えば,デジタル信号を時間軸で観測するオシロスコープ,デジタル信号を周波数軸で観測するシグナル・アナライザ,伝送線路のインピーダンスやsパラメータを測定するネットワーク・アナライザやTDR(time domain reflectometry)オシロスコープ,電源や負荷を模擬する電子負荷,伝送信号波形やEMIを解析する伝送線路シミュレータや電磁界シミュレータなどである。こうした計測器やツールを効果的に利用しなければ,トラブルの原因を短時間で突き止めることができない。開発期間の長期化を招く危険性が高まる。

デジタル民生機器開発の課題

 それでは,デジタル民生機器の設計において,協調設計に加えて協調評価が欠かせなくなってきた理由をもう少し詳しく解説しよう。