前編より続く

連載の第4回は,日経エレクトロニクスの「ISSCC(IEEE International Solid-State Circuits Conference)」のプレビュー記事から2005~2011年の有線通信分野のトピックスを取り上げ,その技術トレンドを見る。近年,家電製品の多くで高速インターネット通信への接続機能が搭載されるようになった。こうした機能を実現するためには有線通信技術の進化が必須であり,それを支える技術がISSCCに数多く登場している。(Tech-On!)


ISSCC 2005に見る有線通信

FDMAを適用して通信容量拡大
低速バックプレーンの高速伝送技術も

 有線通信分野では米University of California Los Angeles校の,FDMA(frequency division multiple access)技術を用いるチップ間伝送向けトランシーバが新たな観念をもたらすことを予感させる[18.6]。無線通信で広く使われるFDMAを利用することで,3Gビット/秒以上のシステム・バスを実現した。CDMA方式に比べ伝送容量を大きく,1伝送路の多元接続を容易に実現できるという。

 セッション3の「Backplane Transceiver」には,既存の基板配線を使って規定伝送速度以上のデータを電気伝送するトランシーバが多数登場する。1G~3Gビット/秒を想定した既存のバックプレーンに,5G~6Gビット/秒でデータを伝送できるようにした[3.1~3.5]。これは,送信器側の波形等化技術の1つであるプリエンファシスに加え,受信側のDFE(decision feedback equalizer)を用いることで実現する。両者の調整にはいずれも4~5タップ(1タップは受信側のデータ幅)のデータを用いることが多い。多くの発表では送信回路と受信回路の双方を用いて信号劣化を防いでいるが,米Texas Instruments Inc.が開発したレシーバは受信回路側のDFEだけで強度調整を行い6.25Gビット/秒を達成した[3.5]。直前に受信したデータを受信中のデータにフィードバックすることで実現した。

 10Gビット/秒以上の高速伝送もCMOS回路による実現が進む。周波数の利用効率を上げるために,光通信に使われるデュオバイナリ伝送を電気伝送に適用した12Gビット/秒トランシーバ[3.6],4値PAM利用の25Gビット/秒トランシーバ[3.7],インダクタ利用の40Gビット/秒トランスミッタ[8.1]がそれぞれ初登場した。

 光伝送を扱うセッション12「Optical Communications」では,通信サービスの料金を低減する技術と,高性能なコンピューティングを可能にする技術が発表される。NTTが発表するのが,光ファイバによるアクセス回線向けのPON(passive optical network)対応レシーバである[12.4]。高性能コンピュータの要素技術に関しては,VCSELを4×12のアレイ状に並べて20Gビット/秒を実現したトランシーバに用いるレーザ駆動ICが注目される[12.2]。米IBM Corp.,米Cornell University,米Agilent Technologies,Inc.が発表する。駆動ICの高速化には,電気伝送に用いるプリエンファシス技術を利用した。20Gビット/秒以上の領域で,電気と光の駆け引きが始まりそうだ。

(深石 宗生=NEC システムデバイス研究所 主任研究員)

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(出典:日経エレクトロニクス,2005年1月3日号,p.65)