連載の第1回は,日経エレクトロニクスに掲載された「ISSCC(IEEE International Solid-State Circuits Conference)」のプレビュー記事から2005~2008年のアナログ分野のトピックスを取り上げ,技術トレンドを見る。ISSCCにおけるアナログ分野のセッションは,当該分野における投稿論文や講演数の増加に伴い,セッション数が増加していった。具体的には2005年までは1セッションだけだったが,2006年には「アナログ/RF」セッションと「データ・コンバータ」の2セッションに分かれた。2007年にはさらに「アナログ」と「RF」が分かれて,2008年までは合計3セッションとなっていた。(Tech-On!)


ISSCC 2005に見るアナログ

いつも脇役のD-A変換器が今回の主役
ナイキストD-AとΣΔに注目

 今回のアナログ分野は,なんといってもD-A変換器が面白い。D-A変換器は常にA-D変換器の脇役であり,学会でもA-D変換器より注目度が低かった。しかし今回はその状況が一変する。特にナイキストD-A変換器に注目論文が多いのが特徴だ。このほか,ΣΔ方式は前回に引き続き開発が活発で,今回は広帯域化の記録を塗り替えた。前回大豊作だったナイキストA-D変換器はやや小休止という状況の中で,消費電力が可変のA-D変換器がキラリと光っている。アナログの低電圧設計では,ついに+0.5Vへの挑戦が始まった。

 ①ナイキストD-A変換器の高速化:従来比で2倍強となる22Gサンプル/秒の6ビット超高速D-A変換器をカナダNortel Networks Ltd.が発表する[6.7]。このほか,1.2Gサンプル/秒の15ビット品を米Agilent Technologies,Inc.が[6.1],1.6Gサンプル/秒の12ビット品を米Rockwell Scientific Co.が発表する[6.2]。前者はSiGeのバイポーラCMOS,後者はGaAsのHBT(heterojunction bipolar transistor)とプロセス技術はそれぞれ異なるが,超高速動作時の特性を改善するためにRTZ(return to zero)を使う点が共通している。

 ②ΣΔ方式の広帯域化:前回,信号帯域が10MHzに到達したΣΔ方式は,今回一層の広帯域化を果たした。29MHz帯域のD-A変換器をドイツ Infineon Technologies AGが[6.5],23MHz帯域のΣΔ方式複素A-D変換器をカナダUniversity of Torontoが発表する[27.6]。Infineon社は,2組の回路とRTZを巧みに組み合わせ,高速性と低電力化を両立させた。信号帯域が 30MHz以下の中速領域ではΣΔ方式がナイキストA-D/D-A変換器の足元を脅かし始めた。

 ③消費電力が可変のA-D変換器:「速度と電力にはトレードオフの関係があり,その用途ごとに最適に設計する」という常識が変わる可能性がある。 Toronto大学の10ビット級パイプラインA-D変換器は,50Mサンプル/秒(35mW)~1Kサンプル/秒(15μW)のサンプリング速度に応じて消費電力が変化する[15.3]。

 ④+0.5Vへの挑戦:米Oregon State Universityは動作電圧が+0.6Vのオーディオ用ΣΔ方式A-D変換器を[9.1],米Columbia Universityは+0.5Vで動作するアナログ・フィルタ回路を発表する[27.8]。90nmを使うアナログ設計では+1.2Vや+1.3Vが,もはや当たり前の電圧になってきた[9.2,9.3,15.2,27.3]。

(片倉 雅幸=ソニー セミコンダクタソリューションズネットワークカンパニー ミックスシグナルデバイス事業本部)

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(出典:日経エレクトロニクス,2005年1月3日号,p.59)