前編より続く

マイクロ波やミリ波といった高周波領域の信号測定に用いられる計測器の一つであるスペクトラム・アナライザ。この計測器を使った測定の不確かさを算出するには,その測定方式を十分に理解しておく必要がある。測定方式によって,不確かさの算出時に考慮すべき要因が異なるからだ。測定方式は大きく分けて,アナログIF方式とデジタルIF方式の二つである。今回はデジタルIF方式について,不確かさの算出方法を解説する。(日経エレクトロニクス)

図1 デジタルIF技術を採用したスペクトラム・アナライザ
アジレント・テクノロジーの「E4440A」。測定周波数帯域は3 Hzから26.5 GHz。

 第3回では,パワー・センサとパワー・メーターを用いた高周波電力測定における不確かさの算出方法を解説した。今回は,高周波測定で一般的に使われている計測器の一つであるスペクトラム・アナライザ(スペアナ)を取り上げ,不確かさの算出方法を紹介する(図1)。

 スペアナを用いた測定の不確かさを算出するには,不確かさの要因を適切に選択することが不可欠だ。そのためには,スペアナの動作原理(測定方式)を理解しておく必要がある。そこでまずは,スペアナが登場した当初から採用されているヘテロダイン型アナログIFの動作原理を説明し,その後に現在主流となっているデジタルIF方式の動作原理を紹介する1)。その後,デジタルIF方式について,測定の不確かさの算出方法を解説する。

†ヘテロダイン型=局部発振器が接続されているミキサを使って,RF入力信号の周波数を中間周波数(IF)に変換する方式のこと。AMラジオがこの方式を採用しており,高周波信号を音声信号に変換している。

1) 「 スペクトラム解析の基礎」,『Agilent Technologies Application Note 150』。

検討項目が多いスペアナの不確かさ

 図2は,ヘテロダイン型アナログIF方式を採用したスペアナの機能ブロック図である。RF入力信号は,RF入力アッテネータを通過した後,ミキサにおいてIF信号に変換される。その後,IFアンプやIFアッテネータ,IFフィルタ,ログ・アンプ(対数アンプ)を通って,検波器で整流されビデオ・フィルタで帯域制限された後に,ディスプレイに表示される。すなわち,これが表示結果としてユーザーの目に入ることになる。

図2 ヘテロダイン型アナログIF方式スペアナ
入力された信号は,RF入力アッテネータや低域通過フィルタ,ミキサ,IFアンプ,IFフィルタ,ログ・アンプ,ビデオ・フィルタなどを通過してディスプレイに表示される。