前編より続く

既存のインバータに比べて多くのメリットを備えるマトリックス・コンバータ。現時点で,安川電機と富士電機の2社が製品を市場に投入しているものの,後続メーカーが現れず,普及は思うように進んでいない。課題は価格にある。そこで,新たな用途を開拓するために,世界各地で応用開発が進んでいる。(山下 勝己)

図1 マトリック ス・コンバータの回路構成<br>マトリックス・コン バータの最も一般 的な回路構成が (a)である。格子状 に配置した9個の スイッチ素子を使 って,入力電流と出力電圧を制御する。(b)は,(a)を変形させた回路構成である。インダイ レクト・マトリック ス・コンバータと呼ぶ。3相入力単相出力回路と単相入力3相出力回路 の二つの回路を組み合わせたもので, 両回路の接続部は直流である。
図1 マトリックス・コンバータの回路構成
マトリックス・コンバータの最も一般的な回路構成が (a)である。格子状に配置した9個のスイッチ素子を使って,入力電流と出力電圧を制御する。(b)は,(a)を変形させた回路構成である。インダイレクト・マトリックス・コンバータと呼ぶ。3相入力単相出力回路と単相入力3相出力回路の二つの回路を組み合わせたもので,両回路の接続部は直流である。
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 交流電力を直接,周波数や振幅が異なる交流電力に変換できるマトリックス・コンバータ(図1)。既存のインバータに比べると,小型化できる,変換効率を高められる,装置単体で電力回生を実現できる,変換効率の低下なしに電源高調波電流を削減できる,平滑用の電解コンデンサが不要なため装置寿命を延ばせる,といった多くのメリットを備えている注1)

注1) 学術的には,直流電力を交流電力に変換する主回路のみをインバータと呼ぶ。しかし,産業界では,交流入力用に必要なダイオード整流器やPWM整流器と主回路を組み合わせた装置をインバータと呼ぶことが多い。本稿では,後者の定義を採用する。

 しかし,回路構成と制御方式が既存のインバータと大きく異なる。このため,マトリックス・コンバータ技術を採用した電源装置を新たに開発する場合は,主回路の設計や制御アルゴリズムの開発,実装技術の開発などにゼロから取り組まなければならず,非常に多くの労力が必要になる。従って,現時点ではマトリックス・コンバータを製品化するメーカーは少ない。全4回にわたる連載記事の最終回となる今回は,マトリックス・コンバータの製品化状況と研究開発状況を紹介し,最後に,広く普及させるための提言を述べたい。

2社が既に製品化

 現在,マトリックス・コンバータを製品化している企業は安川電機と富士電機の2社である1~2)。安川電機は2005年6月に「Varispeed AC」を,富士電機は2006年3月に「FRENIC-Mx」を製品化した(図2)。電源電圧はVarispeed ACが200V系と400V系,FRENIC-Mxが400V系。両社共に5.5k~75kWの出力電力容量の範囲で,複数の製品を用意している(表1)。いずれも9スイッチ構成である。

表1 マトリックス・コンバータの特性比較

1) 安川電機のWebサイト,http://www.e-mechatronics.com/product/inverter/ ac/index.jsp

2) 富士電機のWebサイト,http://www.fujielectric.co.jp/news/06030601/.

図2 マトリックス・コンバータの製品例
現在,マトリックス・コンバータを製品化しているのは,安川電機と富士電機の2社である。(a)は安川電機の「Varispeed AC」。2005年6月に発売した。(b)は富士電機の「FRENIC-Mx」で,2006年3月に発売した。いずれも空調ファンや給水ポンプ,エレベーター,クレーン,遠心分離器などで使用するモータの可変速駆動に向ける。(a)は安川電機,(b)は富士電機が提供。