アナログ エレクトロニクスを支える基盤技術
 

第1回:電力変換技術の救世主登場,大幅な小型/高効率化を実現へ

伊東 淳一=長岡技術科学大学
2010/10/11 00:00
出典:日経エレクトロニクス、2008年12月15日号 、pp.150-158 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
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交流電力を直接,振幅や周波数が異なる交流電力に変換するマトリックス・コンバータ。既存のインバータに比べて,小型化や高効率化,信頼性の向上などを実現できる。今回は,マトリックス・コンバータの特徴と回路構成を紹介する。 (山下 勝己)

 直流電力を交流電力に変換するインバータは,モータを駆動する装置などに広く普及しており,電子機器の省エネルギー化に貢献してきた。特に,冷却ファンやポンプなどの機器ではインバータを使うことで,運転パターンに依存するがインバータを使わない場合に比べて50~80%と,大きな省エネルギー効果が得られる。しかし,インバータを現時点以上に普及させるには,解決しなければならない問題が三つ残っている。第1に外形寸法が大きいこと,第2にコストが高いこと,第3に高調波電流が多く発生すること,である。

†インバータ=直流電力を交流電力に変換する電源回路。学術的には,直流電力を交流電力に変換する主回路のみをインバータと呼ぶ。しかし,産業界では,交流入力に対応するために必要なダイオード整流器やPWM整流器と主回路を組み合わせた装置全体をインバータと呼ぶことが多い。本稿では,後者の定義を採用する。

 こうした問題を解決できる可能性を秘めているとして最近注目を集めている技術が,マトリックス・コンバータである(8ページの「半導体の進化が実用化を後押し」参照)。この技術を使えば,交流電力を直接,周波数が異なる交流電力に変換することが可能になる。直流電力を介する必要がないため,大容量の電解コンデンサが不要になる。従って,既存のインバータに比べて,大幅な小型化と高効率化のほか,高調波電流の削減が期待できる。ただし,現時点ではコストが高いという問題がある。

 本連載では,マトリックス・コンバータの基礎から応用までを対象に,4回にわたって解説する。1回目となる今回は,既存のインバータが抱える問題点を明らかにし,これと対比する形でマトリックス・コンバータの特徴や回路構成などを紹介する。

インバータの原理と回路構成をおさらい

 マトリックス・コンバータの説明に入る前に,まずは比較対象となる既存のインバータについておさらいしておこう。インバータは,IGBT(isolated gate bipolar transistor)などのパワー・トランジスタを6個用いて,直流電力を交流電力に変換する回路である。図1(a)はインバータの主回路である。パワー・トランジスタは飽和領域で使用するため,単純なスイッチング素子と考えて構わない。このスイッチング素子のオン/オフを図1(b)に示すパターンで切り替えることで直流電力を交流電力に変換すると同時に,交流電力の周波数を制御する。

†IGBT=絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタ。エネルギー制御に使われる半導体スイッチング素子の一つ。インバータやDC-DCコンバータなどで使われている。ゲート部にMOSFETを組み込んだバイポーラ・トランジスタで,MOSFETを使ってトランジスタの動作を制御する。同様の用途で使われるパワーMOSFETは数百Vと比較的耐圧が低い機器に使われ,IGBTは数百kV以上と耐圧が高い機器に採用されている。

図1 インバータの主回路とその動作
(a)は,インバータの主回路図である。IGBTなどのスイッチング素子を6個用いて,直流電圧を3相交流電圧に変換する。(b)は,主回路を構成するスイッチング素子を方形波信号で駆動した場合,U相とV相の間に現れる線間電圧の波形である。(c)は,スイッチング素子をPWM信号で駆動した場合,U相とV相の間に現れる線間電圧の波形である。
[画像のクリックで拡大表示]

 まず,交流電力の電圧振幅の制御方法を説明しよう。図1(a)において,スイッチング素子のSupとSvnをオンにするとU相とV相の線間電圧Vuvに振幅がEdcの正電圧が,SunとSspをオンにすると振幅がEdcの負電圧が発生する。SupとSvp,もしくはSunとSvnがオンのときは,U相と V相の線間電圧Vuvの振幅はゼロになる。しかし,図1(b)のスイッチング・パターンでは出力電圧の振幅はEdcで固定されてしまうため,出力電圧の振幅を自由に制御できない。

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