第5回までは,CMOS技術に向いた無線システムのアーキテクチャや,無線出力や雑音などの評価法(回線設計)についての説明だった。これからは,実際のSi基板で各電子回路をどのように設計していくべきかの実践的な解説に入る。今回は,Si基板の特性とオンチップ・インダクタの設計について触れる。(野澤 哲生=日経エレクトロニクス)

 いよいよ,CMOSプロセスを用いたRF回路を設計する場合のポイントと設計事例を解説していく。具体的には,今回は①RF回路の省電力化手法のデジタル回路などとの違い,②Si基板の高周波での振る舞い,そして①と②の知識を総合した,③オンチップ・インダクタの実装例について解説する。

省電力化はアンプに注意

 まず,①のRF回路の省電力化の手法について説明する。最近のLSIは,省電力であることが重要な設計指針の一つになっている。デジタル回路の場合,ムーアの法則に沿って設計ルールを微細化していけば,リーク電流が小さい間はある程度の省電力化が達成できてしまう。これは,消費電力が電源電圧の2乗に比例する一方で,微細化によって低電圧化を実現できるためである。

 RF回路では事情がやや異なる。RF回路はアナログ回路なので,一部の回路を除いて消費電力は電源電圧の2乗に比例せず,むしろ電源電圧に比例して消費電力が変化する(図1)。これは,RFブロック内の小信号動作回路がRF特性を維持するために,各回路に一定以上のバイアス電流が必要であるためだ。それでも,電源電圧を下げることで省電力化が図れることには違いがない。

図1 RF回路における省電力化手法の違い<br>RFアナログ回路の大部分は,効果の程度に差はあるものの,デジタル回路と同様に低電圧化で消費電力を低減できる。ところが,パワー・アンプなど一定電力のRF信号を出力する回路は,低電圧化の手法が有効でない。こうした回路の省電力化は,変換効率を上げることでしか実現できない。
図1 RF回路における省電力化手法の違い
RFアナログ回路の大部分は,効果の程度に差はあるものの,デジタル回路と同様に低電圧化で消費電力を低減できる。ところが,パワー・アンプなど一定電力のRF信号を出力する回路は,低電圧化の手法が有効でない。こうした回路の省電力化は,変換効率を上げることでしか実現できない。
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