前編より続く

数多くのA-D変換器の中から所望の品種を選択するには,ジッタやSFDRなどといった用語の理解が欠かせない。ところが実際の設計の現場では,用語の理解不足に起因するトラブルが数多く発生している。そこで,今回から3回にわたって,データシートに使う主な用語の意味を解説する(清水 直茂=日経エレクトロニクス)

 A-D変換器が狙い通りに動作しないといったトラブルの原因は,設計者がデータシートを読みこなせておらず,仕様の解釈の間違いによって,適切な品種を選択していない場合が多い。シートに記載されている用語と数値が,実際の回路にどのように影響するのかをきちんと把握するには,ある程度の経験が必要となる。

 そこで今回から3回に分けて,データシートに記載されている用語の意味を説明していく。説明では,AC用途の逐次比較型A-D変換器(「ADS8422」,16ビット,4Mサンプル/秒,米Texas Instruments Inc.(TI社)製)と,DC用途のΔΣ型A-D変換器(「ADS1232」,24ビット,80サンプル/秒,TI社製)を例に取る。今回は前編で,まずデータシートを読み解く上での留意点を紹介し,続いてAC用途のサンプリング特性とAC特性について,データシートの用語を一つずつ説明していく。第5 回は中編で,アナログ入力特性とDC特性を,第6回の後編ではDC用途のA-D変換器のデータシートの読み方を解説する。

まずは表紙で選定を

 数ある品種の中から,用途に合う品種を選ぶには,データシートの表紙の記述で最初の選定を行うとよい(図1)。表紙には,各メーカーの自慢の仕様が記載されており,使ってほしい用途などが一目で分かる。それを基にして大まかに選定した後に,重要な項目を詳細に検討していく。

図1 まずは表紙を見る<br>A\-D変換器メーカーは最も見てほしい性能を表紙に掲げる。数多くの品種から一つを選択する場合,まずは表紙を見て選定を始めると,時間の節約になる。
図1 まずは表紙を見る
A-D変換器メーカーは最も見てほしい性能を表紙に掲げる。数多くの品種から一つを選択する場合,まずは表紙を見て選定を始めると,時間の節約になる。
[画像のクリックで拡大表示]

 重要な項目とは,AC用途ならばダイナミック特性を重視して3~4品種に絞り込み,DC特性である入力レンジやドリフト,直線性,付属機能の有無などで,本命と次候補を決めることとなる。