これまで,電圧モード制御や電流モード制御といった線形制御方式に比べてマイナーな存在だったヒステリシス制御などの非線形制御方式。今,この非線形制御方式が注目を集めている。簡単な回路構成で,高い負荷応答特性が得られるからだ。既に,一部のデジタル家電や家庭用ゲーム機,パソコン周辺装置などでの採用が始まっている。非線形制御方式が抱えていたデメリットも克服されつつあり,今後適用される電子機器が一気に増える可能性が出てきた。

 ヒステリシス制御をご存じだろうか。この制御方式を採用した最も身近な電子機器は電気ごたつである。ある温度以下になるとサーモスタットが「カチッ」と鳴ってスイッチがオンになり,しばらくして温度が一定値以上に上がると再び「カチッ」と音がしてスイッチがオフになる。この制御に必要な回路は,基準温度と比較するコンパレータだけだ。

 この制御方式をスイッチング・レギュレータ(DC-DCコンバータ)回路に適用したのが「ヒステリシス制御レギュレータ」である。制御方式の呼び名はいろいろある。比較的年配の技術者は「バンバン(Bang-Bang)制御」と呼ぶ人が多いようだ。出力のリップル電圧,もしくはリップル電流を使ってコンパレータを動作させるので「リップル制御」と呼ぶ技術者もいる。かつては,「フリーランニング(free-running)制御」と呼ばれていた時期もあった。ただし,最近の国際学会などでは「ヒステリシス(hysteretic)制御」という呼び名が定着してきたようだ。

 現在,ヒステリシス制御などの非線形制御方式を採用したスイッチング・レギュレータは,デジタル家電や家庭用ゲーム機,パソコン,パソコン周辺機器などの電源回路に数多く採用されている。市場規模から見れば,決してマイナーな存在ではない。ところが,教科書や参考書にその名前が登場することはあっても,技術的な解説はほとんど掲載されておらず,その詳細は意外なほど知られていない(7ページ目の「非線形制御方式の歴史,世界初の論文は1964年」参照)。

さまざまな機器で高速応答性が必要に

 現在,教科書や参考書で中心的に取り上げられているのは,電圧モード制御や電流モード制御といった線形制御方式である(図1)。

図1 DC\-DCコンバータの制御方式における大きな三つの流れ<br>現在,DC\-DCコンバータの制御方式は,三つに分化して開発が進んでいる。具体的には,「線形制御」「線形制御と非線形制御の組み合わせ」,そして「非線形制御」である。
図1 DC-DCコンバータの制御方式における大きな三つの流れ
現在,DC-DCコンバータの制御方式は,三つに分化して開発が進んでいる。具体的には,「線形制御」「線形制御と非線形制御の組み合わせ」,そして「非線形制御」である。
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 これらの制御方式では,固定周波数のPWM(pulse width modulation)信号を使ってスイッチング素子をオン/オフするタイミングを調整することで,出力電圧を安定化する。携帯型電子機器から産業用電子機器までの極めて広い分野で採用されている。つまり,小電力出力にも大電力出力にも適用可能だ。しかも,固定周波数のPWM信号で動作するので設計が比較的容易な上に,マルチフェーズや並列運転などの複雑な回路構成にも対応できる柔軟さを併せ持つ。いわば「無難な(コンサバティブな)回路方式」である。ただし,負荷の急激な変化に対する応答速度は比較的低いというデメリットを抱えている。