機器開発者は,EMCの法規制/規格を必ずクリアしなければなりません。ただEMCにはたくさんの規格があり,理解するのも大変です。ここでは規格を分かりやすく分類し,その測定法の概略や,実際の測定を試験所で行うときのポイントについて解説します。さらに,静電気放電などのイミュニティを調べる試験の際に,機器全体にどのように電流が流れていくのかを解説します。

 電子機器のEMC(electro-magnetic compatibility)に関する規格/法規制は,たくさんあり,頭がこんがらがってしまう人は多いでしょう。ここでは,EMCの規格をエミッション(電子機器から電磁雑音が出てくること)とイミュニティ(電磁雑音が電子機器に入ってきたときの耐性)という基本的な分類に沿って理解してみましょう。さらに,規格に沿った測定の仕方や対策の進め方を学びます。

エミッションの規格

 エミッションの規格は,放射性と伝導性に大別できます(表1)。

表1  電子機器向け主要EMC関連規格
表1 電子機器向け主要EMC関連規格
[画像のクリックで拡大表示]

 放射性の規格では,文字通り,機器が放射する30MHz以上の電磁界の許容値や測定法を規定しています。主な規格として,CISPR(国際無線障害特別委員会)が規定するCISPR11(無線機器向け),同13(テレビ向け),同22(情報機器向け)などがあります。

 伝導性については,主に機器から交流電源線に漏れ出る電磁雑音(150k~30MHz)の電圧を測定します。150kHz以下の電磁雑音の発生源は,家電などの電子機器にはあまりありません(大電力のインバータなどからは,150kHz以下の電磁雑音が発生します)。

エミッションの測定

 エミッションの測定の方法は,放射性と伝導性で異なります。

 放射性のエミッションは,電子機器から一定距離(例えば,3mや10m)離れたところに置いたアンテナで,電磁波の強度を計測します(図1)。

図1 放射性エミッション(EMI)の測定方法EMI測定は,床面は反射面でそれ以外の5面は電波を反射しない電波暗室や,周辺に電磁波の放射源や反射物がない屋外(オープン・サイト)で行います。電波暗室とオープン・サイトのいずれの場合も機器をターン・テーブルの上に置いて回転させながら,アンテナで電磁波を測定します。アンテナは,床からの高さが1~4mの範囲で昇降します。測定する電磁波の周波数は,例えば30~1GHz。アンテナと被測定機器との距離は3mまたは10m。多くの規格への適合試験には10mの測定値を使います。3mの測定値を10mでの測地値に換算することが認められている規格もあります。

 電源線から外部に出る伝導性のエミッションは,電子機器の電源線をLISN(line impedance stabilization network,疑似電源回路網)を通して直接スペクトラム・アナライザに入力したり,電源線から放射する電磁雑音を電界強度計などで受けたりして測定します。

 機器メーカーの設計者は放射性のエミッションの規制に悩まされることが多いので,放射性エミッションの測定法について解説します。設計者は詳しい測定法を知る必要はありませんが,概略は押さえておくべきです。

 放射性のエミッションの測定では,アンテナは広帯域アンテナを使用し,機器から3mあるいは10m離します。次にアンテナの高さを1~4mの高さに変化させ,電子機器は360度回転させながら,アンテナで受ける強度の最大値を測定します。規制されている周波数帯域全域にわたって測定します。

 簡単なようですが,強度の値は機器やケーブル位置,角度などで変化することに注意しましょう。このため,測定で使用する同軸ケーブルのコネクタ類は経年変化や劣化を考慮しながら,定期的に交換しています。また,試験所の測定サイトの物理的配置は細かく規定され,測定サイトとしての性能確認も義務付けられています。

 測定に際しては,試験所の測定技術者に指導を受けるとよいでしょう。また,不合格となったら,そのときの機器の配置やケーブルの引き回しの状況を写真に撮っておくべきです。EMC対策をした後で再び測定を行うことになりますが,機器の配置やケーブルの引き回しの変化で,データが変わってしまう可能性が大きいからです。対策の効果を明確にするためには,配置関係を同じにして測定しなければなりません。