放電の電源一体化
多出力に向くという特徴のあるハーフブリッジ半波電流共振方式を使い,より良好なクロスレギュレーション特性を実現できる回路方式を,PDP用電源への応用例を参照しながら解説する。
PDP用電源の特徴は,300~500W出力のサステイン放電回路以外に,70~150W程度の出力のアドレス放電回路を有するというところにある。サステイン放電回路とアドレス放電回路には交互にパルス状の負荷を供給する必要があるため,巻き数比のみで出力した場合に満足する電圧精度を得るのは非常に困難である。それだけではない。サステイン放電回路よりも低いとはいえ,アドレス放電回路の出力電圧は70V程度と比較的高く,かつ出力電力も大きいため,降圧チョッパ回路†などで簡単に構成することもできない。そのためサステイン放電用電源とは別にアドレス放電用電源としてコンバータを構成する必要があった。
†降圧チョッパ回路=ある直流電圧を任意の電圧の直流電圧に変換するというチョッパ回路の中で,電圧を降下させる機能があるもの。
ただし,ハーフブリッジ半波電流共振方式を用いると,サステイン放電用電源とアドレス放電用電源を一つのコンバータで構成することが可能だ。一つの電源にまとめることで,PDP電源のコスト低減と効率改善が図れる。当社は,このような電源の開発を進めてきた。以下では,当社で開発したデュアルフィード・コンバータやPSC方式†のコンバータを紹介しよう。
†PSC方式=サンケン電気で開発したパルス入力1石式電流共振(Pulse input Single end switch Current resonance)方式の略語。
PWM制御とPFM制御を一体化
デュアルフィード・コンバータは,多出力電源において高い出力精度を要求される場合や,2出力共に大電力の場合,あるいはダイナミックに負荷電力が変動するような使い方でも良好なクロスレギュレーションを得たい場合などに適している。回路は通常のハーフブリッジ半波電流共振回路に,共振用リアクトルLr2や1次巻き線P2(トランスT2),電流共振用コンデンサCiから成る第2の直列共振回路および2次側の整流回路をもう1組追加した構成となっている(図4)。そして,二つの出力をそれぞれ制御できる。
デュアルフィード・コンバータの動作波形を見ると,当然のことながら二つの共振回路は回路図上全く同じ回路構成なので,それぞれの共振回路に流れる電流は同じようになっている(図5)。では,なぜ二つの出力を別々に制御できるのか。その理由は,それぞれの共振用リアクトルと共振用コンデンサの組み合わせに秘密がある。
まず,第1の共振用リアクトルLr1はT1の1次─2次間を密に結合させることで小さくし,かつ組み合わせる共振用コンデンサCi1の容量を大きくする。一方,T2は1次─2次間の結合を悪くして共振用リアクトルLr2をLr1に対して十分大きくし,かつ組み合わせるCi2の容量を小さくする。このような組み合わせにした共振回路の周波数と電力の関係は,第1と第2の共振回路で大きく異なるようになる(図6)。
第1の共振回路はCi1が大きいため,共振周波数は動作周波数に対して十分に低い周波数に位置し,周波数の変化に対して電力の変動が小さい。これは,前述したハーフブリッジ半波電流共振方式の一般的な回路の特性である。一方,第2の共振回路では動作周波数が共振周波数に近い位置にあるので,周波数を変えたときに電力が大きく変化する。そのため,周波数を調整することにより出力を制御できる。この特性は,前回紹介したハーフブリッジ全波電流共振方式と同じである。
つまり,デュアルフィード・コンバータとは,半波電流共振のPWM制御に,全波電流共振のようなPFM制御を組み合わせた方式といえる。この方式を使えば,従来別々のコンバータで構成していた出力を一つの共振型コンバータで取り出せ,コストと電力損失を大幅に削減することができる。