スイッチング動作をするハーフブリッジ全波電流共振方式の特徴をまとめると,次の6項目になる。

(1)共振動作によりスイッチング損失が小さい。

(2)ハーフブリッジ構成であるので,スイッチング素子の電圧が入力電圧で制限される。そのため,フライバック方式のコンバータなどに比べて耐圧が低いMOSFETをスイッチング素子に使える。耐圧が低いMOSFETはオン抵抗が小さいので,電力損失を小さくできる。

(3) 2対の2次巻き線は同じ巻き数であるので,各巻き線に発生する電圧はおよそ同じ電圧となる。そのため2次側ダイオードには,耐圧が出力電圧の約2倍の品種が使える。例えば,24V出力であれば,耐圧が60Vと低いショットキー・バリア・ダイオードが使える。そのため順方向電圧降下が小さい品種を使えるようになり,整流損失を大幅に削減可能である。それに対しフライバック方式のコンバータでは,耐圧200Vのファスト・リカバリ・ダイオードが必要になる。

(4)ハーフブリッジ構成であるため,トランスには交流電圧が印加されることになる。フライバック方式のコンバータに比べてトランスの利用率が2倍となるため,大電力を取りやすい。

(5)ZVSやZCSといったソフトEスイッチングであるため,雑音の発生量が小さい。加えて,トランスは1次─2次が分割された構造であるため,1次─2次間の浮遊容量が小さく,雑音が伝わりにくい。

(6)フライバック方式のコンバータに比べて,多出力化したときのクロスレギュレーション特性が優れている(図6)。

図6 クロスレギュレーション特性例
ハーフブリッジ全波電流共振方式とフライバックPWM方式のクロスレギュレーション特性(他の出力への影響)の一例である。電圧制御した12V,4A出力,あるいは12V,0.1A出力に対する,巻き数比のみで24V,4A出力を取り出した場合の24V回路の出力電流と出力電圧の関係を示した。フライバックPWM方式に比べ,ハーフブリッジ全波電流共振方式は電圧変動範囲が極めて小さいことが分かる。

複数出力に向く電圧安定性

 (6)のクロスレギュレーション特性について,もう少し説明しよう。クロスレギュレーションとは,複数の出力を取り出す場合,ある出力が他の出力に与える影響である。例えば,PWM制御を使うフライバック方式のコンバータの場合,軽負荷時には1次側FETのオン期間の幅を狭めて出力を制御する。そのため,2次巻き線に電圧が発生する期間も短くなる。複数の2次巻き線から巻き数に応じた異なる電圧を取り出す場合,電圧制御を行っている出力の負荷に応じて他の出力電圧が大きく変動してしまう。2次側にレギュレータ回路を追加すれば,システム全体としてのクロスレギュレーション特性の改善が可能だが,部品点数が増えるのでコストが上がってしまう。

 それに対してハーフブリッジ全波電流共振方式では,オン期間の幅が極端に狭まることはないので,出力電圧の変動は小さい。

 また,他の出力が軽負荷の場合,フライバック方式のコンバータは2次巻き線に発生するサージ電圧によって出力電圧が大きく上昇してしまうのに対し,ハーフブリッジ全波電流共振方式はこのサージ電圧の発生を少なく抑えられるので出力電圧の上昇が小さい。

 これらの理由によりハーフブリッジ全波電流共振方式では,良好なクロスレギュレーション特性が得られるので,2次側にレギュレータ回路を設ける必要もなく,システム全体としてはコスト・メリットを出せる場合もある。