FPDテレビのメイン電源として広く使用されているのが,ハーフブリッジ全波電流共振方式である(図5(d),前々回を参照)。共振回路を複数持つハーフブリッジ構成のため部品点数は他方式に比べて多く,回路動作も複雑である。部品点数は2倍程度になるだろう。スイッチング素子は2個必要であり,ハイサイド側のスイッチング素子の駆動には耐圧が600Vと高いドライバも使う。加えて,共振回路を形成するコンデンサ(図5(d)中のCi,Cv)が必要となる。2次側については,1出力についてトランスは3本足が必要で,整流ダイオードは2個使う。

 しかし,部分点数が増える一方で,図5(a)~(c)のフライバック方式では到達できない90~95%という高い電源効率と低雑音を得ることが可能だ。加えて,ハーフブリッジ構成であることからトランスの磁束をフライバック方式に比べ2倍稼げるので,トランスの寸法を小さくできる利点もある注4)

注4) 図5(a)~(c)のようにスイッチング素子が1個の場合(シングルエンド)では,トランスに対して片方向に電流が流れ,磁束が発生し電力変換を行う。図5(d)~(e)のようにスイッチング素子が2個の場合(ハーフブリッジ)は,それぞれのスイッチング素子がトランスに対して反対方向に電流を流すことができるので,プラス方向とマイナス方向共に電力変換することが可能である。このため,シングルエンドのものに比べてトランスの利用率は2倍になる。

 ハーフブリッジ全波電流共振方式では,ソフト・スイッチング動作を行うために循環電流を用いており,発振周波数と出力電力の関係はこの循環電流で決まる。循環電流が適切でないと共振外れという特有の現象が発生し,電源設計を難しくする面もある注5)。ただし,専用制御ICを用いれば比較的簡単に電源を設計できるようになった。スイッチング素子のターン・オン時はゼロ電流スイッチング(ZCS:zero-current switching),ターン・オフ時はZVSになっており,スイッチング損失はほぼゼロである。

注5) 電流共振方式は,Lr(リーケージ・インダクタンス),Lp(P巻き線のインダクタンス),Ci(電流共振コンデンサ),Cv(電圧共振コンデンサ)による共振現象を用いている。共振現象のため共振周波数が存在し,これを境として共振回路に流れる電流と電圧の位相が反転する特性がある。ハーフブリッジ全波電流共振方式では,共振周波数より高い領域で使用することによりZVSやZCSといったソフト・スイッチングを可能としている。ただし,共振周波数より低い領域で使うと位相の反転が生じる。こうなると,ZVSやZCSを維持できなくなり,結果としてスイッチング損失が大幅に増えてしまう。

 図5(a)~(c)のフライバック方式はシングルエンド型と呼ばれ,出力電力が大きくなるにつれて不要なサージ電圧がトランスに発生する。このサージは,出力電流の2乗に比例するため,大出力になればなるほど処理は困難だ。それに対してハーフブリッジ全波電流共振方式は,原理的にサージが発生しないので大電力が可能であり,雑音も少ない。同方式の詳細は次回から2回にわたって解説する。

多出力に向く半波電流共振

 現在,注目されているスイッチング電源方式が,ハーフブリッジ半波電流共振方式である(図5(e),前々回を参照)。中~高電圧出力に向いており,液晶テレビやPDPテレビなどの一部で使われるようになった。電源効率は85~90%と,フライバック擬似共振方式とハーフブリッジ全波電流共振方式の中間程度である。

 最大の利点は,2次側出力を図5(a)~(c)のフライバック方式と同様に取れるため多出力に向くこと。トランスの2次側出力は,ハーフブリッジ全波電流共振方式では1出力に対してトランスの足が3本必要だったが,ハーフブリッジ半波電流共振方式になると2本で済む。これによって,トランス構造が簡単になる。加えて,2次側整流回路(整流ダイオード)も簡素化できる。この2次側が簡素化されることが,多出力対応につながる。

 さらに,その制御方式から,2次側出力を複数取ったときの各出力の精度が,他方式よりも高いという特長を持っている。出力電圧精度が高いため,後段に配置するレギュレータ回路なども簡素化でき,コストダウンを図ることが可能になる。連載の第6回~第8回で,ハーフブリッジ半波電流共振方式の詳細を解説する。