トランスのP巻き線(1次側巻き線)のインダクタンスと擬似共振用コンデンサによる電圧共振を利用したスイッチング電源が,フライバック擬似共振方式である(図5(c),前回を参照)。ターン・オフ時やターン・オン時のスイッチング損失や雑音を減らせる特徴があり,電源効率は80~85%程度である。

 図7の動作波形を参照しながら,基本動作を見ていこう。まず,スイッチング素子(MOSFET)のターン・オフ時は,電圧共振用のコンデンサによってMOSFETのドレインに印加される電圧のdv/dtが抑えられる。そのため,ターン・オフ時は,ソフト・スイッチングであるゼロ電圧スイッチング(ZVS:zero-voltage switching)となり,スイッチング損失および雑音を減らせる。MOSFETのターン・オン時にはトランスの1次巻き線のインダクタンスと電圧共振用コンデンサの共振現象を利用し,ドレイン電圧の低くなるタイミングでターン・オンさせ,ソフト・スイッチングするようにしている。つまり,ターン・オン時でもスイッチング損失および雑音が減少するというわけである。

【図7 フライバック擬似共振方式の動作波形】フライバック擬似共振方式のスイッチング電源における,動作波形を示した。特徴としては,(1)スイッチング素子のターン・オフ時はゼロ電圧スイッチング(ZVS)となっており,スイッチング損失はほぼない,(2)ターン・オフ時の傾斜はなだらかで低雑音スイッチング,(3)素子のターン・オン時は遅延時間まで待つことによりボトム電圧まで待ってからターン・オンしているので損失が少ない,ということが挙げられる。スイッチング電源には,サンケン電気の電源用IC「STR\-W6700シリーズ」を用いた。
図7 フライバック擬似共振方式の動作波形
フライバック擬似共振方式のスイッチング電源における,動作波形を示した。特徴としては,(1)スイッチング素子のターン・オフ時はゼロ電圧スイッチング(ZVS)となっており,スイッチング損失はほぼない,(2)ターン・オフ時の傾斜はなだらかで低雑音スイッチング,(3)素子のターン・オン時は遅延時間まで待つことによりボトム電圧まで待ってからターン・オンしているので損失が少ない,ということが挙げられる。スイッチング電源には,サンケン電気の電源用IC「STR-W6700シリーズ」を用いた。
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 ドレイン電圧が低い状態でオンさせるために,ボトム・タイミング検出回路を利用してターン・オンのタイミングを遅らせている。このときの遅延時間は共振周期の1/2程度である。

 フライバック擬似共振方式の問題点としては,軽負荷時や入力電圧が高い状態では発振周波数が上昇し,スイッチング損失が増加してしまうことがある。入力電圧が高い軽負荷状態では発振周波数が200kHzを超え,スイッチング損失が大きいために電源効率が悪化する。

 軽負荷でスイッチング損失が増大する理由は,フライバック擬似共振方式はフライバック自励RCC方式と同様に,軽負荷になるとスイッチング周波数を上げ,重負荷になるとスイッチング周波数を下げるという制御にしているからである。前述したように,軽負荷ではスイッチング周波数が高くなり,スイッチング損失が増えてしまう。

 ただし,フライバック擬似共振方式はソフト・スイッチング化しているのでスイッチング損失そのものは小さく,スイッチング周波数増加時の損失上昇はフライバック自励RCC方式よりもかなり小さく抑えられる。