システムの特徴や仕様に応じて,使用するマイコンは変わってきます。前回は,制御系システムの場合に,マイコン選定に際して考慮する一般的な項目について説明しました。今回は,信号処理系システムで使用するマイコンの仕様検討について解説します。(連載の目次はこちら

 映像信号や音声信号をデジタル化して利用する場合,用途に合わせて信号にさまざまな処理を施します。例えば最近流行の携帯型音楽プレーヤーで音楽を再生する場合には,システムに内蔵したNANDフラッシュ・メモリなどからMP3(MPEG-1 audio layer III)などの音声圧縮処理が施されたデータを読み出し,さらに音楽信号へ復元する処理をシステムに搭載したマイコンが行っています。

 このような用途が信号処理システムの典型的なものですが,そこで使用されるマイコンを選定する場合,特に図4のような項目について考慮が必要です。ここでは,これらの項目について選択する際の基準と注意事項について述べます。

図4  信号処理系システム向けマイコンの選択指針の例
図4 信号処理系システム向けマイコンの選択指針の例
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[演算回路]
CPUで処理できない場合の対応策を考える

 信号処理に使用するマイコンの演算性能が足りなければ,満足できる機器ができません。そのため,演算性能はしっかりと確保しましょう。演算性能という視点で重要なのは,CPUのほかに,コプロセサや内蔵DSP(digital signal processor)の有無および内蔵RAMの有無です。

 マイコンの中心的な機能であるCPUの処理速度については,まず単位時間当たりに必要な信号処理ステップ数を概算します。さらに,データ入出力やユーザー・インタフェースなどに必要な処理が十分にこなせるかどうかを確認します。また動作クロックが高くなると,制御系マイコンと同様に消費電力や不要輻射への配慮も必要です。

 このほかに,コプロセサや積和演算などができるDSPがマイコンに載っているかどうかを確認します。例えば,音声信号に音響効果を付加するためにはIIR(infinite impulse response)フィルタやFIR(finite impulse response)フィルタなどの演算を行う必要がありますが,単純なCPU命令の組み合わせでは演算できなかったり,膨大な処理ステップが必要になったりします。さらに整数演算や固定小数点演算では,システムに要求される精度を確保できない場合もあるため,浮動小数点演算を少ない処理ステップで実行できるかどうかも演算性能に大きく関係します。もちろん,一つのマイコンで演算性能を確保できない場合は,複数のマイコンや専用DSPを別に搭載することも可能です。

 内蔵RAMは,CPUやコプロセサ,DSPから余分なオーバーヘッドなくアクセスできるため,演算を効率よく行うためには欠かせないものです。一般的には,1本の演算プログラムを周期的に繰り返すことで信号処理を行います。この演算プログラムをすべて内蔵RAMに展開できれば,実行速度が格段に上がることが期待できます。内蔵RAMへのアクセスに必要なサイクル数と内蔵RAMのサイズに注目して,このような用途のマイコンを選定します。